『愉しい学問』 フリードリヒ・ニーチェ著

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愉しい学問

『愉しい学問』

著者
フリードリヒ・ニーチェ [著]/森 一郎 [訳]
出版社
講談社
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784062924061
発売日
2017/01/12
価格
1,566円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『愉しい学問』 フリードリヒ・ニーチェ著

[レビュアー] 納富信留(ギリシャ哲学研究者・東京大教授)

哲学の喜びへ導く箴言

 この本を見よ。――ニーチェは今も人気者である。アンソロジーでつまみ食いして知った気で安心してはいけない。この箴言(しんげん)のスタイルでしか書けないことを、その通りに読む。血と汗を流さずに、まして高らかに笑うことなく読むことができないのが、この人なのだから。

 愉(たの)しい学問。――『悦(よろこ)ばしき知識』といった名で知られてきた主著が、ドイツ語直訳のこのタイトルで新たに登場した。その学問とは哲学である。訳者の言を聞こう。「知ること、見てとること、考えることは、愉しく嬉(うれ)しく悦ばしいことであり、その愉悦は至福をもたらすと、哲学者は古来、おのれの愛欲の営みをゆるぎなく肯定してきた。…もしこの世に救いがあるとすればコレだ、という確信を本書が洩(も)らしていることを、敏感な読者は聴きとるであろう」

 時代批判。――時代を見る遠近法が必要である。時代を見失っている時代、時代を批判することが時代遅れとされる時代。だが、時代は批判者にはるかに遅れをとった…

 時代遅れ。――われわれが一番の国家だ、最高の民族だ、そんな声を張りあげる者はいきでない、彼はドイツ人をそう評した。私たちはその美的感覚を忘れてしまっている。

 ポスト真理。――「人間がまた新しい神を立てたのね」。真理の女神はヴェールの下で笑って言う。「でも、私をないがしろにする者は『生』を損なうのよ」。ニーチェほど彼女を覗(のぞ)きこんだ人間もいない。この男を素通りして、この女神の前も後も語ることはできない。

 翻訳は労多くして…。――日本語になったニーチェの言葉、それは雪解けをもたらす春風のように、私たちを哲学の悦びへと導いてくれる。ゆっくりと、長い時間と体験をかけて。

 書物。――いかなる書物も超えた彼方(かなた)へわれわれを連れ去ることが全然ないような書物に、何の意味があろう。(本書248番より)

 森一郎訳。

 ◇Friedrich Nietzsche=1844~1900年。ドイツの哲学者。本書に合わせ、書評も箴言形式をとった。

 講談社学術文庫 1450円

読売新聞
2017年3月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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