『絵画の歴史』 デイヴィッド・ホックニーほか著

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絵画の歴史

『絵画の歴史』

著者
デイヴィッド・ホックニー [著]/マーティン・ゲイフォード [著]/木下哲夫 [著]
出版社
青幻舎
ISBN
9784861525872
発売日
2017/02/01
価格
5,940円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『絵画の歴史』 デイヴィッド・ホックニーほか著

[レビュアー] 伊藤亜紗(美学者・東京工業大准教授)

美術史が人類学に接近

 テート・ブリテンで大回顧展が開催中のホックニー。書名の原語はPicturesだから、「絵画」だけでなく写真、アニメーション、映画、水墨画などをも含む「画像」一般の歴史書だ。洋の東西もジャンルも超えて「三次元を二次元にする技法」を探求するその野心は、アクリル絵画、ポラロイド写真のコラージュ、ファックスによる素描、合成写真など、その時代のテクノロジーを旺盛に取り入れてきた美術家にふさわしい(ちなみに表紙はiPadで制作)。

 前著『秘密の知識』の成果が、批評家ゲイフォードという対談相手を得て深められ、敷衍(ふえん)される。どんな画像も、二人の眼差(まなざ)しの前ではその来歴を暴かれてしまうのだ。それがどんな技法によって作られたか、そしてどんな道具によって作られたか。ラファエロの画面が整然としているのは、「活版印刷の普及により紙の値段が下がり、画家が構図を練るために使える紙の数が増えたため」。他方でカラヴァッジョの描く人物相互の位置や視線が噛(か)み合っていないように見えるのは、「一人ずつ描き、それを後からフォトショップのようにコラージュしたから」。空間的な整合性を犠牲にしてでも、画中の人物と同じ部屋に居るような迫真性を、見る者に与えようとしたのである。

 近年の状況に目を移すと、写真のステイタスが大きく変化している。デジタル化が進み、誰もが容易に加工できるようになった今、写真はもはや「真実を写す」ものではなくなりつつある。ホックニーが言うように、「写真は絵画から生まれ、絵画に戻っていく」のかもしれない。歴史の書でありながら、単線的な歴史観をくつがえす数多(あまた)のインスピレーション。それにしても、世界を画像として所有したいという人間の欲望のいかに深く、文化と技術の枯れることなき源泉であることか。画像という視点を通して、美術史が人類学に接近する。木下哲夫訳。

 ◇David Hockney=1937年英国生まれ。美術家。絵画、舞台装飾、写真、版画などを駆使して制作している。

 青幻舎 5500円

読売新聞
2017年3月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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