<東北の本棚>秋田の風土や震災詠む
[レビュアー] 河北新報
「短歌は生の証し。喜怒哀楽、情の表現」と著者は言う。表題はここに由来。2010年以降の作品から約500首を選んだ。
1938年大仙市生まれ。「かりん」同人で、今回が第5歌集となる。
中学の国語教師を27年間勤めた。<母二人胸にすまわせ見ておりぬ田沢湖蒼く逆巻く波を>。母2人とは、生母と育ての親を指す。<五十年共に生ききて夫と見る尺玉花火天地ふるわす>は、大曲花火を詠んだ。ベースにあるのは秋田の風土である。
<花のいろ風のいろ既に淡々しされど鮮やか土崎空襲>。自宅から土崎港まで約40キロの距離。「空が赤く焼けていた」のをはっきり記憶している。終戦の時は小学2年、時に社会詠を作るのは、幼い頃の戦争体験が影響しているようだ。
東日本大震災の作品も多数含まれている。<五日目につながりし電話「生きてるよ」仙台の友いつも強がり>。仙台に高校時代の同級生がいた。<原発禍に避難重ねし歌の友『今フクシマから』立上る歌>。南相馬市にいた歌の仲間は原発事故の後、各地を転々と避難したが、やがて帰郷。「もう一度、歌を、暮らしを再出発する」姿を詠んだ。
「風土と社会詠、その二つをテーマに歌を作り続けたい」と著者は語る。
ながらみ書房03(3234)2926=2700円。