<東北の本棚>奇抜発想共感呼び形に
[レビュアー] 河北新報
東京電力福島第1原発事故の風評被害に苦しむ福島で、本来の福島の魅力を発信できる劇場用映画を作ろう。それも県の予算で-。
こんな無謀な企画を打ち出した一人の門外漢が実際に映画を完成させるまでの始終を自ら書いたノンフィクション。68歳の著者は福島にほとんど縁がないが、新聞記者時代の人脈を生かし内堀雅雄知事との接触に成功。人口減対策を進める県の思惑とも合致し、企画が動きだす。
当初の構想は縮小を余儀なくされて1000万円の予算で固まるが、実施主体の市町村探しや機材の確保、県庁内部の予算折衝など壁が次々立ちはだかる。「本当にやれるのか」と県、受け皿となった天栄村、起用された監督さえもが半信半疑。議決を経なければ事業化できない原則の行政と、今すぐ資金が必要な製作サイドのはざまに立ち、著者の胃痛は増すばかり。
「福島で若いクリエーターに自由な現場を」。次第にその趣旨に共感する関係者が一丸となり、村内での撮影を支えるくだりは映画のようにドラマチックだ。どの作品もエンドロールで脚本、プロデューサーといったスタッフや撮影協力の企業、団体名が流れるが、それらがどんな経緯で参加し、どんな役割を果たすのかが本書を通じて分かり、興味深い。
ふとした思いつきを3年越しで形にした著者はつづる。「動き出してみると、あては外れるし、計画はひっくりかえる。ところがそれでも動いていれば、何とかなるではないか」
映画「恋愛奇譚(きたん)集」は、台湾出身の女優ヤオ・アイニンさんと村出身の俳優和田聡宏さんらが出演する青春群像劇。新進気鋭の倉本雷大(らいた)監督がメガホンを取った。仙台市では18日から宮城野区のチネ・ラヴィータで上映。
著者は1947年東京都生まれ。71年日本経済新聞社入社、94年退社し、コンサルティング会社の沼田事務所を設立。
方丈社03(3518)2272=1512円。