古典が今や最先端! 歴史文献にアクセスする唯一の方法

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

アプリで学ぶくずし字

『アプリで学ぶくずし字』

著者
飯倉 洋一 [編集]/合山 林太郎 [著]/南 清恵 [著]/加納 靖之 [著]/ロバート キャンベル [著]/矢田 勉 [著]/金時徳 [著]/ラウラ モレッティ [著]/山邊 進 [著]/ユディット アロカイ [著]/橋本 雄太 [著]
出版社
笠間書院
ジャンル
文学/日本文学総記
ISBN
9784305708267
発売日
2017/02/10
価格
880円(税込)

書籍情報:openBD

古典が今や最先端! 歴史文献にアクセスする唯一の方法

[レビュアー] 神作研一(国文学研究資料館教授・総合研究大学院大学教授(併任))

 くずし字は楽しい。まるで外国語のようでもある。
「生・そ・ば」とか「お・て・も・と」とか、実は「くずし字」(変体仮名)は今も私たちの身近にあって、文化的にもデザイン的にもある種のフシギな空気感を演出しているのだが、一般にはやはり、古くさくて異質な、一部の古文書愛好家にしか尊重されない過去の遺物だと思われている。実際、ほとんどすべての日本人にとっては、「くず字し」なぞ読まなくたって全く問題なく生きていける。だがしかし、私たちがより豊かに生きようと願う時、その智恵とヒントが詰まった「歴史/古典」に学ばない手はないだろう。役に立つものばかりを性急に求める現代にあって、ソレはややもすると「うしろ向き」と捉えられがちだが、決してそうではない。江戸時代に刊行された『解体新書』や『塵劫記』を挙げるまでもなく、「古典」は文学だけなく医学や数学などすべての学問領域に存在するのであり、ソコには先人の叡智が凝縮満載されている。歴史を知り、古典に学ぶ――。だからちょっと大げさな言い方をすれば、「古典が今や最先端!」とさえ断言できるのだ。
 さて本書は、「くずし字学習支援アプリKuLAの使い方」と副題するように、スマホアプリの使用ガイドである(*アプリKuLA【Kuzushi-ji Learning Application】は2016年2月にリリース、世界じゅうで反響を呼び、ダウンロード数はこの一年で5万超に及ぶ)。もっとも、これは単なるガイドブックではなく、くずし字をめぐる〈知〉の展開にも目配りした、それ自体が非常に戦略的でおもしろい読み物にもなっている。南清恵(ホノルル美術館)「くずし字アプリでの学習実践」とユディット・アロカイ(ハイデルベルク大学)「ハイデルベルク大学のくずし字教育」など海外での実践例を知るのは楽しいし、加納靖之(京都大学防災研究所)「古地震学とくずし字解読」で災害史把握の重要性を知り、さらにロバート・キャンベル(東京大学)「文字を書く壁」でくずし字習得の意味と可能性に思いを馳せる。アプリ同様、ゆるキャラ「しみまる」と「しばのすけ」のナビゲートも可愛らしい。
 くずし字は歴史文献にアクセスする唯一の方法であり、その習得を起点として、読者には今後一人ひとりが自力で、広くて深い古典の〈森〉へと分け入ってほしい。

週刊読書人
2017年3月10日号(第3180号) 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読書人

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク