宇宙飛行士。あれやこれや――『天穹(てんきゅう)のテロリズム』刊行エッセイ 嶋中潤

エッセイ

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天穹のテロリズム

『天穹のテロリズム』

著者
嶋中潤 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334911553
発売日
2017/03/15
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

宇宙飛行士。あれやこれや――『天穹(てんきゅう)のテロリズム』刊行エッセイ 嶋中潤

[レビュアー] 嶋中潤

国際宇宙ステーションを舞台に、日本人宇宙飛行士が活躍する『天穹のテロリズム』を書いた。

 仕事柄、宇宙飛行士に会う機会は多い。その中のレジェンドは誰だろう。そう考えると真っ先にユーリイ・ガガーリンの名が浮かんだ。「地球は青かった」という言葉を残した人物。そう教えられたが、どうもこれは不正確な引用で根拠も見当たらないらしい。それでも漆黒の闇に浮かぶ青い地球の映像を見ると自然とこの言葉を思い出す。

 ガガーリン同様、大きな足跡を残したレジェンドといえば間違いなくニール・アームストロングが思い浮かぶ。一九六九年七月二十日二十時十七分三十九秒(協定世界時)、バズ・オルドリンとともに月面に着陸。アポロ11号の船長として人類史上はじめてその月に一歩をしるし、有名な「That’s one small step for a man, one giant leap for mankind」の言葉を残した。

 このアームストロング。ボーイスカウトの最高位「イーグルスカウト」を取得したと聞かされたが、写真で見る通りの堅物だったらしい。しかし個人的にはそんなアームストロングよりオルドリンに何倍もの親しみを感じる。なぜならある種、とても人間味あふれる人物だからだ。残念ながら面識はないが、その人物像は立花隆著『宇宙からの帰還』に詳しい。いわく、抜群の数学的頭脳を持ちながらも女々しいこだわりを持つ自己中心主義的人間。社交性がゼロに近く、人と接することが苦手。浮気をして妻と不和になり、病院で精神分析療法を受け、ついに離婚。枚挙にいとまはない。

 昨今の宇宙飛行士は、いわゆるコミュニケーション能力を重視される。そこで当然社交性にすぐれた優等生となる。それを思えばこのオルドリン、現在の基準では到底選ばれなかったはずだが、小説の主人公にするなら彼の方が断然おもしろい。かの歴史的快挙からまもなく半世紀。願わくば会って、話を聞きたいものだ。

光文社 小説宝石
2017年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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