網走の遊郭で過酷な人生を生きた女性『凛』蛭田亜紗子

レビュー

3
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凜

『凜』

著者
蛭田 亜紗子 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784062204972
発売日
2017/03/15
価格
1,674円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

網走の遊郭で過酷な人生を生きた女性『凛』蛭田亜紗子

[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)

 流されて流されて、最下層に行き着いてしまっても、最後に艶やかに咲く花がある。掃き溜めに鶴の譬えのように、凜として立つ女。まさにタイトルどおりの小説が登場した。

 女子大生の上原沙矢は遠距離恋愛の恋人を訪ね、ひとり網走にやってきたが仕事であえなくなり、やむなく一人旅を続けていた。就活の時期でもあり、卒論のテーマも探したい。落胆のなか、ぼんやり考えていたとき「常紋トンネル工事殉難者追悼碑」にたどり着いた。図書館で調べ始めると、網走の地で生きた男と女の過酷な歴史に当たる。沙矢はその本を読みふけった。

 大正三年、雇先の男に誑かされて子供を産み、厄介払いされた女が青函連絡船に乗っていた。名前は八重子。網走の遊郭「宝春楼」で働くために東京からやってきたのだ。

 当時の網走では開拓事業のため、トンネルの掘削などで作業員が不足していた。そのため、各地から強引に人が集められタコ部屋行きとなって過酷な労働をさせられていた。男が集まる場所には女も集まる。地の果てのようなこの土地でも遊郭は栄え、娼妓たちは多忙を極めていた。八重子は胡蝶という名を与えられ、離れて暮らす子を思う日々を過ごしていた。しかしその子の死を知って一番の売れっ子「お職」になる決意をする。文盲を恥じて読み方書き方を習い、青函連絡船で出会った元大学生の白尾麟太郎と文通を続け、少しずつ教養を身につけて行った。そしてある日、楼閣の待遇改善に立ち上がる。

 読み進むうちに鳥肌が立った。それほどこの小説の迫力に打ちのめされた。蛭田亜紗子が描く世界は鮮烈だ。重厚な作品を堪能してほしい。

光文社 小説宝石
2017年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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