『ガリバルディ』 藤澤房俊著

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ガリバルディ イタリア建国の英雄 (中公新書)

『ガリバルディ イタリア建国の英雄 (中公新書)』

出版社
中央公論新社
ISBN
9784121024138
発売日
2016/12/20
価格
886円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ガリバルディ』 藤澤房俊著

[レビュアー] 出口治明(ライフネット生命保険会長)

伊統一の英雄、生の姿

 イタリアに旅すれば誰しも通りや広場にガリバルディの名を見つけるだろう。ガリバルディとは何者か。明治維新の直前、赤シャツを着てイタリア統一を導いた自由と平等の申し子であり、世紀の英雄である。明治の先達も彼に熱狂したが、その後日本では忘れられた。本書は彼の軌跡を辿(たど)り英雄の実像に迫る。

 イタリアがナショナリズムに覚醒したのはナポレオンによる占領からである。マッツィーニが「青年イタリア」を結成し、北イタリアを占拠しているオーストリアに挑む。船員として社会に出たガリバルディは青年イタリアに荷担したとみなされ南米に雌伏するが、ウルグアイの独立運動で戦功をあげ(この時に赤シャツ隊が誕生)、名声が世界に轟(とどろ)く。帰国後、千人隊を組織してシチリアに上陸、数に勝る両シチリア王国軍を破ってシチリア・南イタリアを解放、イタリア統一の立役者となった。この働きによってガリバルディは“神話”の主人公となり、アメリカ政府は南北戦争の司令官就任を要請、また普仏戦争では第三共和政の側に立ってプロイセン軍と戦った。

 本書の特徴はこうしたガリバルディの輝かしい栄光を追うばかりではなく、生身の人間として強さよりもむしろ女性関係の脇の甘さなど弱さに比重をおいて叙述されているところにある。直情径行で無謀な行動主義者で大きな駄々っ子であった彼は政治外交的にイタリアの統一を図ろうとするサルデーニャ王国の冷徹な首相カヴールなどと常に軋轢(あつれき)を引き起こした。それでも義勇軍の先頭に立つ彼は、マッツィーニのような知性もカヴールのような政治的感性も欠いてはいたが民衆を熱狂させる天性の資質を持っていたのである。おそらくイタリアの統一は、カリスマ性を備えた国王ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世、カヴール、ガリバルディの3人の誰が欠けてもうまくはいかなかったであろう。ナポレオン3世に代表される当時の国際環境にも目配りの行き届いた好著である。

 ◇ふじさわ・ふさとし=1943年、東京都生まれ。東京経済大名誉教授。著書に『「イタリア」誕生の物語』など。

 中公新書 820円

読売新聞
2017年3月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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