『アドルフ・ヴェルフリ』 服部正監修

レビュー

9
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アドルフ・ヴェルフリ

『アドルフ・ヴェルフリ』

著者
アドルフ・ヴェルフリ [イラスト]/服部正 [著]
出版社
国書刊行会
ISBN
9784336061416
発売日
2017/01/31
価格
2,700円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『アドルフ・ヴェルフリ』 服部正監修

[レビュアー] 伊藤亜紗(美学者・東京工業大准教授)

 渦巻き、ほどけ、並走する装飾帯。天使たちは無言で目を逸(そ)らし、奏でられるのを待つ音符たちの横で、利子を計算する数字が無限の桁を叩(たた)き出す。1920年代に見出(みいだ)され、既存の美術にカウンターパンチをくらわせた「アール・ブリュットの王」、アドルフ・ヴェルフリ。幼くして孤児となり、性的暴行未遂容疑でスイスの精神病院に生涯抑留された。作品は、30年以上にわたる入院生活の中で描かれたものである。

 ものを作る作業は小さな選択の連続である。この線をどちらに曲げるか、どんな間隔で点を打つのか、余白にどんなモチーフを入れ込むのか。課題を設定するのも自分なら、それに答えるのも自分だ。人生において限られた選択肢しか手にできなかったヴェルフリが、制作においては無数の選択肢を獲得し、誰にも邪魔されずに迷い、選び取る。不可侵の「自律」の興奮に、すべての細部が沸き立っている。

 国書刊行会 2500円

読売新聞
2017年3月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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