【話題の本】『ひとさらいの夏』冨士本由紀著

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ひとさらいの夏

『ひとさらいの夏』

著者
富士本, 由紀, 1955-
出版社
双葉社
ISBN
9784575513721
価格
680円(税込)

書籍情報:openBD

【話題の本】『ひとさらいの夏』冨士本由紀著

[レビュアー] 産経新聞社

 ■再び書店発の注目作

 「大好きな本なので、最後は自分の好きな本屋で売ってほしいんです」。双葉社の営業部員は、そう言って冨士本由紀著『ひとさらいの夏』のラスト在庫50冊を、盛岡市のさわや書店フェザン店に託した。思いを受け止めた書店員が「注文殺到!ってなったら重版してくれるかも」とツイート。本当に他の書店などから出版社に問い合わせが相次ぎ、刊行から6年半を経て重版が決まったという。

 書店員というのは昨年、覆面販売で話題を集めた「文庫X」を仕掛けた長江貴士さん。再び書店発の注目作を生み出した。「最初は売り切って終わりと思っていたんですが、絶版はもったいないと思ってアピールしてみたんです。本と読み手の出合いの場を作れたとしたらうれしい」と話す。

 今月になって5000部を重版した双葉社。取り扱いを希望する書店が増えたためさらに3000部を増刷し、「全国の100店舗以上に配本しました」。出版界では初版だけで消える本のほうが圧倒的に多い。本好きの熱意と連携が1冊の本を生きのびさせた。

 なかなかうまく生きられない主人公たちに訪れる転機と心の葛藤を描いた短編集は、ほろ苦くて味わい深い。(双葉文庫・619円+税)

 篠原知存

産経新聞
2017年3月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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