池上彰 たった0.1%の超富裕層が富を独占する国の現実

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超一極集中社会アメリカの暴走

『超一極集中社会アメリカの暴走』

著者
小林 由美 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784103508717
発売日
2017/03/24
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

池上彰 たった0.1%の超富裕層が富を独占する国の現実

[レビュアー] 池上彰(ジャーナリスト)

 アメリカ大統領選挙でドナルド・トランプ大統領が誕生したことは、アメリカ社会の格差拡大が尋常ではないことを示しました。アメリカの主要なメディアはヒラリー・クリントン候補の勝利を予想していました。ところが、こうした主要メディアの本拠地はニューヨークやワシントンといった東海岸。民主党の支持者が多い所です。アメリカ中西部や南部の人々の思いを掬いとることができませんでした。国家や社会から「忘れられた」と絶望の淵にいる貧しい白人労働者たちの怒りに気づかなかったのです。

 しかし、気づけるチャンスはあったはずです。それは、同じ民主党で大統領候補になろうとクリントン氏と争ったバーニー・サンダース氏が、若者たちの熱烈な支持を得ていたからです。大統領選挙中、サンダース氏の政治集会に取材に入った私は、高校生や大学生たちの熱気に圧倒されました。彼らは、大学の学費の異常な高騰に悩まされ、将来の夢が描けないでいたのです。

「公立大学の学費を無料化する」「北欧のような社会福祉を導入する」という彼の主張が受け入れられた背景には、アメリカの深刻な格差の現実があったのです。

 無意識のうちにインテリ富裕層の側に立っていた主要メディアは、どちらの動きも軽く見ていました。ところが、これらの潮流は、左派であれ右派であれ、格差社会からの「チェンジ」を求めていたのです。

 ところがサンダース候補は民主党の大統領候補にはなれませんでした。共和党の大統領候補になれたトランプ氏だけが、国民に投票できるチャンスを与えたのです。

「少なくともチェンジはなし遂げるはずだ」という貧しい白人層の期待が、「まさか」の政権を誕生させました。

 そのアメリカは、これからどこへ向かおうとしているのか。最新事情に精通した著者は、驚くべき実態を描き出します。

「国民は富の集中や金権政治にうんざりしています。労働者の味方だったはずの民主党が、クリントン政権の頃から都市の進歩派富裕層を主要な資金源に取り込み、彼らの利益を代弁するようになりました」「権力者もお金も東海岸と西海岸を飛行機で往復するだけで、その空路の下にある大陸中央部は完全に無視され、馬鹿にされている。中西部や南部の労働者は、生活困窮の原因をそのように認識していました」

「民主党は都市の進歩派富裕層やハイテク産業から政治資金を得て、都市部に集中しているマイノリティを取り込み、共和党は重厚長大産業やエネルギー、金融界から政治資金を得て、中西部や南部に集中している貧しい白人を取り込んだということです。いずれも政治資金を確保するために、富裕層や企業の利益を守る必要があるわけですから、富の集中が進むのは当然です」

 では、どれくらい富の集中が進んでいるのか。全米の階層別平均実質所得を見ると、上位0・01%の平均は2900万ドル。日本円にして29億円を大きく超えます。1980年代以降、上位0・1%の所得は増え続けているのに、それ以下の所得はほとんど増えていません。アメリカでは一時、「我々は99%」という政治スローガンが叫ばれました。富の大部分は1%の金持ちが独占しているという格差を告発するものでした。ところが、いまや富を独占するのは0・1%ないし0・01%に集中する事態になっています。

 アメリカは日本以上の学歴社会。こうした富裕層の仲間入りをするには、幼児期からのレベルの高い教育が求められます。アメリカに国立大学はありませんから、教育熱心な家庭の子はエリート私立大学に進学。この学費が年々上昇し、4年間で3000万円という金額も珍しくありません。サンダース旋風が巻き起こった理由がわかろうというものです。

 その一方、教員試験を目指す学生たちの大半が分数の計算もできない現実を小林氏は報告します。こうした学生たちが教師となって教えるのは、公立の小学校や中学校。こうして格差は再生産されていきます。

 こんなアメリカに未来はあるのか。トランプ大統領はアメリカの製造業の復活を約束しますが、いまのアメリカの製造業では、労働力としての人間が必要とされなくなっているのです。経営コストの削減によって、雇われる側の所得は減り続けます。かつて明るい未来として描かれた「情報社会」は、いまや悪夢になりつつあります。

 アメリカで起きたことは、やがて日本でも起きる。アメリカを他山の石として、日本は何ができるのか。この本は、それを考えるための手掛かりになるでしょう。

新潮社 波
2017年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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