震災があっても続ける 三陸・山田祭を追って 矢野陽子 著

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震災があっても続ける 三陸・山田祭を追って 矢野陽子 著

[レビュアー] 今石みぎわ(東京文化財研究所研究員)

◆地域の歴史つくる力

 六年前の東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手県山田町、そこに伝わる山田祭の復活の歩みをつづったルポである。現地で取材を続けてきた著者の矢野さんの感性によって引き出された地域の方々の言葉が印象深い。「まつりがなかったらこの町にはいない」「歴史が津波で流されてしまうから芸能がどんどんダイナミックになっていく」「まつりをやることで地域の力を維持してきた」

 人々はまつりや信仰という<非日常>を、震災前から手放さずに大切にしてきた。だからこそ、それが震災後にも大きな拠(よ)り所となった。まつりも神様も震災の死者も抱えこんだ地域の、懐の深さを改めて感じる。

 繰り返し語られる、まつりが変化し続けてきたという事実も印象深い。踊りも囃子(はやし)も演出も、時代に合わせてどんどん変える。古くさい伝統ではなく、「俺(おれ)たちのまつり」にするためだ。

 そのダイナミックさは、津波の凶暴さを無化する力すら持っているように見える。地域は常に変化を続ける。今は「満身創痍(まんしんそうい)」でも、やがてはそれも途切れることない地域の歴史の一ページになるのではないか。そんな逞(たくま)しさを感じる。

 「震災があっても続ける」のはまつりだけではない。その土地で暮らしていくこと、そのものなのだと。

 (はる書房・1620円)

<やの・ようこ> 1968年生まれ。文筆家。著書『注文でつくる』『濁る大河』。

◆もう1冊 

 高倉浩樹ほか編『無形民俗文化財が被災するということ』(新泉社)。震災被災地での祭礼や民俗芸能の意味を探る。

中日新聞 東京新聞
2017年3月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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