『相棒』エース脚本家のヒューマンサスペンス

レビュー

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天上の葦 上

『天上の葦 上』

著者
太田 愛 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041036365
発売日
2017/02/18
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

天上の葦 下

『天上の葦 下』

著者
太田 愛 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041036372
発売日
2017/02/18
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『相棒』エース脚本家のスリリングな巨篇!

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 ドラマ不振が続く中、今も安定した人気を誇る水谷豊主演の警察ドラマ『相棒』。その脚本家のひとりとして知られる太田愛は、最近は長尺版や劇場版も担当するなどエース格の活躍を見せているが、その傍ら小説にも手を染め、『犯罪者クリミナル』『幻夏』の二長篇を発表。本書は長篇第三作に当たる。

 内容は相棒もの―ではなくて、元テレビマンの興信所所長・鑓水七雄と調査員の繁藤(しげとう)修司、そして鑓水の友人でもある警視庁刑事・相馬亮介の活躍を描いたシリーズもので、いずれも大がかりなヒューマンサスペンスに仕上がっている。

 その特徴のひとつは出だしからあっといわせる演出にあるが、今回も一〇月半ば、東京・渋谷のスクランブル交差点の真ん中で九六歳の正光秀雄が空の一点を指さした後、昏倒して亡くなる場面から始まる。

 四日後、鑓水たちは政府与党の元重鎮・磯辺満忠の私設秘書から正光が最期に何を指さしていたのか突き止めてほしいという依頼を受ける。宿敵・磯辺の依頼など断りたいのは山々だが、興信所が経営難の今、引き受けざるを得ないのだった。

 一方、深大署に左遷中の相馬は署長命令で警視庁公安部の前島と会い、失踪した彼の部下・山波の行方を探るよう依頼される。鑓水たちも相馬もわずかな手がかりを頼りに調査を続けるうち、正光と山波に接点があったことを突き止めるが……。

 正光老人と山波刑事の謎めいた行動が徐々に解明されていくくだりはまさに捜査小説の醍醐味、個性的な脇役や小さなヒネリ技も効いていてスリリングのひと言だ。しかし本書の読みどころといえば、やはり正光老人の第二次世界大戦中の秘められた過去と、さらなる手がかりを求めて鑓水一行が瀬戸内の小島に赴く第二部以降かも。古い因習が残る人間関係の濃密な島は、九〇歳超が一四人という超高齢化社会。横溝正史『獄門島』を髣髴させるアクの強い老人たちとの関わりから、正光の過去もより鮮明に浮かび上がってくる。

 迫真の戦争悲劇は山波の失踪劇の背後にうごめく巨大な陰謀をも逆照射する。忌まわしい過去を繰り返そうとする、今そこにある危機に警鐘を打ち鳴らす社会派ミステリーとしての読み応えも充分だ。

 宿敵・磯辺との因縁等、前々作から尾を引いている設定もあるが、第一作も『犯罪者』と改題のうえ文庫化されたばかり。本書で初めてこのシリーズに触れる方はぜひ頭にさかのぼってひもといてみて!

新潮社 週刊新潮
2017年3月30日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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