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滅法面白い ひと味違う「侠客もの」
[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)
近年、時代小説の執筆に余念のない門田泰明が〈拵屋(こしらえや)銀次郎半畳記〉の第二弾を刊行した。題名は『侠客』。
江戸の三大侠客といえば、幡随院長兵衛と夕立勘五郎、そして大口屋暁雨。このうち、長兵衛に関しては、その知られざる半生をメインに描いた池波正太郎『侠客』(新潮文庫)が、勘五郎を主人公にしたものには宮本昌孝『夕立太平記』(講談社文庫)があるが、暁雨に関しては歌舞伎『侠客春雨傘』があるだけで、小説化はされていない。
さて、それでは本書の侠客は?と問われると、これがなかなか一筋縄ではいかない。
が、その前に、このシリーズをはじめて読む方のために、銀次郎の職業である〈拵屋〉を説明すると、武家から商家まで、縁談等の前夜に娘の顔を美しく化粧、つまりは〈拵える〉というもの。助手には訳ありの美女“黒羽織のお仙”がいる。
ところが、銀次郎が〈拵えた〉老舗呉服問屋「京野屋」の娘・里が見合いに行く途中、祖父の文左衛門が、これも老舗菓子舗「桐屋」の前で浪人者に斬殺される。
刺客の刃は切っ先三寸が欠け飛んだという。
銀次郎、今は市井に身を置いているが、もとは歴とした武士。伯父は目付職の和泉長門守兼行で、敏腕同心・真山仁一郎の耳目となることもある。
その仁一郎から切っ先三寸の型紙を渡された銀次郎は、市中の刀屋を廻るが、最初に訪れた「奈茂造二代目」でくだんの浪人が現われたことを知る。その際、貫禄充分な侠客たちが、十数人の手下を連れて実戦刀を買っていったというのだ。
一方、この間にも、「京野屋」の帳簿を調べた目付すじがことごとく斬殺されるという事件が起こっている。そして文左衛門には、勘定吟味役配下の隠密調査役という過去があった。
それにしても、前述の侠客たちの話が出るのが、ちょうど半分を過ぎた頃─一体、何者で何をしようというのか、まったく分からない。それでも作品は滅法面白いのだから困ってしまう。とにかくはやく次巻を、という他はあるまい。