『深い穴に落ちてしまった』
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明文堂書店石川松任店「謎に包まれた穴の中の物語」【書店員レビュー】
[レビュアー] 明文堂書店石川松任店(書店員)
章の番号が2、3、5……と素数になっている謎めいた物語。主な登場人物と言えるのは、二人だけである。深い穴に落ちてしまった二人の間柄は兄弟らしい。名前さえ分からない兄弟の穴の外での様子はほとんど明かされずに、物語は進んでいく。分かるとすれば、穴の隅で転がる袋に母親へ渡す食べ物が入っている《可能性がある》ことくらいだ。100ページちょっとの物語の中に、憤怒と憎悪と覚悟に染められた兄弟の穴の中のサバイバルが描かれている。
作品の至るところに暗示されているはっきりとは明かされない答えを自分なりに読み解き、自分なりの答えを見つけていかなければならない。決して親切な物語じゃないが、難解な物語というのも違うような気がする(物語自体はとてもシンプルです)。訳者あとがきを参考にしながら、もう一度読み解こうとしたものの断念してしまった部分も多いことを正直に告白しておきます。この種の作品を読む時、こういう作品を読むのに自分は向いていないのかな、といつも不安になるのですが、面白く読めたのは事実なので、私の記憶の重要な部分に貼り付いて取れなくなってしまったような気がするこの作品を、おすすめします。