明文堂書店石川松任店「過激や過剰が真実に変わる瞬間に、恐怖……。」【書店員レビュー】

レビュー

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最後の喫煙者

『最後の喫煙者』

著者
筒井, 康隆, 1934-
出版社
新潮社
ISBN
9784101171432
価格
481円(税込)

書籍情報:openBD

明文堂書店石川松任店「過激や過剰が真実に変わる瞬間に、恐怖……。」【書店員レビュー】

[レビュアー] 明文堂書店石川松任店(書店員)

《国会議事堂の頂きにすわりこみ、周囲をとびまわる自衛隊ヘリからの催涙弾攻撃に悩まされながら、おれはここを先途と最期の煙草を喫いまくる》嫌煙権運動が昂り、喫煙者差別が異常なレベルにまで達した世界で、地上最後の喫煙者となった小説家……「最後の喫煙者」。
 甲殻類といった方が適当な大きさを持つ虫《ランプティ・バンプティ》。その虫を背負い、寄生させた子どもはIQが高まり、天才になった。無条件ではないが、天才になれる方法が普及されつつある社会の悲喜劇……「こぶ天才」。
 本書はとても怖い小説集だ。新潮文庫の自選傑作集シリーズの中には、ホラーと銘打たれたものが別に二冊あります(『懲戒の部屋』『驚愕の曠野』の二冊ですね。これもおすすめ!)が、本書にもそれらの短篇集に負けない恐怖(必ずしもホラー小説的な恐怖とは限らない)が皮肉な笑いの中に潜んでいる。無茶苦茶だ、と一蹴することのできない世界、そこで生きる必死な登場人物たち。過激や過剰が真実に変わる瞬間が、本書にはあるような気がします。私たちはもしかしたらこの世界を笑っているわけではなく、この世界に笑われているのかもしれない……。そう考えると、とても怖くなりました。

トーハン e-hon
2017年2月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

トーハン

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