それは本当に必要なモノか。「片づけ上手」の基本事項は、捨てる・残す・譲る

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それは本当に必要なモノか。「片づけ上手」の基本事項は、捨てる・残す・譲る

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

捨てる 残す 譲る 好きなものだけに囲まれて生きる』(フランシーヌ・ジェイ著、弓場 隆訳)の著者は、「好きなものに囲まれて身軽で優雅に暮らす」をモットーにしているというエッセイスト。「無駄をそぎ落として必要なものにだけお金をかける」というミニマリストのライフスタイルを紹介するブログが、世界的に支持されているのだそうです。

そんな著者は、ミニマリズムが「空虚な生活」というようなイメージで捉えられがちであることを理解しているようです。しかしその一方で、視点を変えると「空虚」は「スペース」と解釈することもできると主張してもいるのです。考え、遊び、創造し、家族と一緒に過ごすためにはスペースが欠かせないのだとも。

家の中が散らかっていると、たくさんのモノに押しつぶされそうな気分になり、ゆったりとした生活を楽しめなくなります。しかしミニマリズムを実践すると、所有物を上手に管理することができるのだとか。失われたスペースを取り戻し、家が持つ本来の機能を回復させ、快適な生活を送ることができるようになるということ。その結果、モノが散らかった部屋での息苦しい生活から解放されるというわけです。

本書が提唱しているのは、おしゃれな収納用品や大きな収納庫にたくさんのモノを入れることではなく、ふだんの生活で扱うモノの量を減らすことです。
(「はじめに」より)

とはいえ、それはなかなか難しいことでもあります。そこで第2章「捨てる、残す、譲る。片づけ上手はこうしている!」から、いくつかのヒントを抜き出してみたいと思います。

一からやりなおす

自宅を見渡すと、あらゆる場所にさまざまなモノが。その光景を目にするにつけ、精神的負担を感じることがあるものです。しかしだからといって、家の中をすぐにスッキリさせることは難しくもあります。

とはいえ、いったんコツがつかめれば、片付けはどんどん上達すると著者はいいます。ポイントは、時間をとって課題を細分化すること。1回にひとつの場所(部屋のように広い場所や引き出しのように狭い場所)を選び、まるで引越しのように一からやりなおすことだといいます。そしてそのための秘訣は、その場所にあるすべてのモノを取り出すこと。

引き出しなら、ひっくり返して中身をすべて放り出す。クローゼットなら、中身をすべて外に出す。対象となる場所を空っぽにすることの大切さは、いくら強調してもしすぎることはないとすら著者はいいます。

私たちは特定のモノが特定の場所にあるのを見慣れているため、それらがそこにある権利を持っていると考えがち。しかし、モノをいつもの場所から取り出して眺めるだけで、「それがなくなるとその場所がスッキリする」ことに気づき、それに対する見方が完全に変わる可能性があるというのです。

家をきれいに片づける作業は、「なにを捨てるか」よりも「なにを残すか」を決める行為としてとらえると簡単になるそうです。だからこそ、一からやりなおすこと(すべてのモノを定位置から取り出し、ひとつずつ元に戻す作業)が効果的だということ。

捨てるモノを選別するより、自分が本当に好きで大切に保管したいモノを選別するほうが、片づけはずっと楽しくできます。
(91ページより)

空っぽのギャラリーからはじめて、その空間を彩るオブジェをひとつずつ決定する美術館の館長のように、私たちも自宅の館長になる必要があるのだと著者。一からやりなおし、「どのオブジェが暮らしを便利で豊かにしてくれるか」を決定し、それだけを元に戻す必要があるということです。(86ページより)

捨てる、残す、譲る

いったんモノを定位置から取り出したら、分類して対処の仕方を決める必要があるといいます。そこで重要なのは、全所有物を「捨てる」「残す」「譲る」の3カテゴリーに分類すること。

「捨てる」ことについては、大きなゴミ袋(引き出しにあるモノなら小さなゴミ袋でOK)をひとつ用意すれば十分。「残す」「譲る」については、段ボールかシートなどを用意。さらには、箱をさらにもうひとつ用意することがポイントになるそうです。

その目的は、一時的に保留するモノを入れること。手放すべきかどうか、すぐに決められないのなら、その箱にしばらく入れておき、あとでひとつひとつ検証しながら決めればいいという発想。そして、もし半年(か1年)の間、1回も箱を開けなかったとしたら、中身は慈善団体に寄付しようと著者は提案しています。

ただし、この箱は最終手段として使うべき。それらのモノを管理することではなく、必要かどうかわからないモノをどけて家の中のスペースを確保することが目的なので、困難な決定を避ける口実として使ってはいけないということです。

ちなみに著者が主張している「捨てる」とは、「できればリサイクルする」という意味。環境に配慮する必要があるので、可能な限りリサイクルするようにすべきだということです。そして「残す」箱に入れるのは、当然のことながら大切に使うモノ。「譲る」箱には、まだ十分に使えるけれど、もう自分には役に立たなくなったモノを入れるという考え方です。

いったん全所有物を分類したら、「捨てる」の箱と「譲る」の箱の中身を手放してください。そうすれば、大切なモノだけに囲まれた暮らしに大きく近づけます。(100ページより)

人は手放すことを躊躇してしまいがち。でも、「ずっと必要としていなかったモノは、たぶんこれからも必要になることはありません」という言葉にも強く納得できるのではないでしょうか?(93ページより)

モノの存在理由を明確にする

「残す」カテゴリーに分類したひとつひとつのモノについて次にすべきは、その存在理由を見極めること。そこで次の質問を自分に投げかけ、全所有物が家の中に存在する十分な理由があるかどうかを確認しようと著者。

・頻繁に使っているか?
・生活を便利にしてくれているか?
・見た目が美しいか?
・かわりのモノをみつけるのが難しいか?
・さまざまな機能を持っているか?
・時間を節約してくれているか?
・自分や家族の大切な思い出品か?
(102ページより)

つまりはどんなモノであれ、それが家の中にある以上、暮らしに役立たなければならないということ。家をきれいに片づけたいなら、いいモノだけを残し、それ以外のモノは処分するのが最善の策だということです。

細かいことでいえば、目を向けるべきがクリップ、安全ピン、輪ゴム、ヘアピン、ペン、ボタンなどの日用品。いつまでも引き出しの中にしまわれているそれらを、思い切って整理することが大切だというわけです。そしていったん日用品の処理が済んだら、それ以外の所有物を検証。そこで、ひとつひとつ確認しながら、次の質問に答えることを著者は求めています。

・使用目的は何で、使用頻度はどのくらいか?
・この1年でそれを使ったか?
・近い将来、それを使う予定があるか?
・それはあなたの暮らしをより快適にしてくれるか?
・それのメンテナンスは面倒か?
・もしそうなら、わざわざ残す価値があるか?
・それはかけがえのないモノか?
・もし引っ越しをするなら、それを一緒に持っていくか?
・もしそれがなければ、不便に感じるか?
・それは家の中の貴重なスペースを所有するだけの価値があるか?
(103ページより)

こうしたプロセスを経て「残す」の箱に入れるモノを決めたら、次はイタリアの社会学者パレートが提唱した「80対20の法則」を応用。私たちは生活の80%を所有物の20%で満たしているもの。つまり現在の所有物のわずか5分の1で生活できるので、所有物の5分の4がなくなってもほとんど支障がないという考え方です。いわば私たちがしなければならないのは、「生活を満たすために必要な20%」を見極めることだということ。そうすれば、家の中をきれいに片づけることができるといいます。(102ページより)

著者がいうように、ミニマリズムには「無機質なコンクリートの床と光沢のある白い壁に囲まれた部屋に、質素な家具が3つほどしかない」というようなイメージがあるかもしれません。とはいえ、それはまったく非現実的なものでもあります。一方、毎日の生活と紐づいているのが本書の主張。だからこそ、共感できる部分が多いのです。

(印南敦史)

メディアジーン lifehacker
2017年3月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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