宿命と闘った戦国大名――伊東潤×高嶋政伸〈『城をひとつ』刊行記念対談〉

対談・鼎談

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城をひとつ

『城をひとつ』

著者
伊東 潤 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103318538
発売日
2017/03/30
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

宿命と闘った戦国大名――伊東潤×高嶋政伸〈『城をひとつ』刊行記念対談〉


伊東潤さん

北条氏は決して「残念な戦国大名」ではない!
最新刊『城をひとつ』で調略を武器に北条五代を支えた軍師一族を描いた作家と
大河ドラマ『真田丸』で北条氏政その人になりきり、巷の話題をさらった俳優。
二人が思い描く北条の真価とその魅力とは――?

 ***

「その場に連れていく」小説を

高嶋 「真田丸」で北条氏政を演じるにあたっては伊東先生の『戦国北条記』を読んで役の骨子を作る参考にさせていただきました。共鳴した文章を台本に書き写したり、傍線を引っ張ったりして。

伊東 ありがたいことです。高嶋さんの氏政は、ドラマの中で強烈な光を放っていて、本当に素晴らしかった。「真田丸」のおかげで歴史ファンや北条ファンの裾野も劇的に広がりましたし、大いに感謝しています。

高嶋 今度、先生が出される『城をひとつ』も面白くて一日で読んじゃいました。

伊東 それは嬉しい。これまでも、北条氏を題材にしてきましたが、『城をひとつ』は相当な変化球です。北条は武田や上杉と違い、主に外交と調略で版図を拡大してきた一族なので、敵陣営に潜入し、信用を得た上で攪乱して味方を有利に導くという、いわば潜入捜査官のような役割の人間がいたんじゃないかと思ったんです。そこから出発したのが、この作品です。気に入っていただけて何よりです。

高嶋 小田原城に現れた不敵な老人が城を取って見せると豪語する「城をひとつ」は好きですね。あとは最終話、北条をいかにして壊滅させるかを描いた「黄金の城」も印象的です。実際にこういう人物がいたんですか?

伊東 各話の舞台となる戦の大枠は史実通りですが、人物像や一つ一つのエピソードは創作です。『城をひとつ』は史実を押さえつつ、「こうだったとは証明できないが、こうでなかったとも証明できない」ギリギリの線を狙っているんですよ。

高嶋 そうなんですか。城攻めの描写もリアルでしたし、本当にこういう調略があったんじゃないかと思えました。

伊東 僕の小説では、読者を「その場に連れていく」ことを意識しています。合戦の最前線や調略の現場、様々な場面にお連れする。そういう意味では、一人で映像化作業をしているようなものですね。

高嶋 先生はどういうきっかけで作家になられたんですか?

伊東 ずっと外資系企業でサラリーマンをやっていたんですが、城めぐりが趣味になり、お城のホームページを作ろうと思ったのがきっかけです。城の紹介を書いているうちに文章が小説調になっていくんです。それで小説を書いてみたら楽しかった。最初の作品を書いたのが42歳で、今56歳ですから、まだまだですよ。

高嶋 やはり北条が一番お好きで?

伊東 僕は横浜生まれの横浜育ちで、城めぐりも北条氏の城から始めましたからね。それに僕のデビュー当時は、まだ北条氏の小説なんてあまりなかったので、まず北条を書いて自分の居場所を作り、コアなファン層を固めてから武田、上杉、徳川と領土を拡張していこうと思ったのです。生き延びるための戦略ですよ。

天守閣から見えたこと

高嶋 まさに戦国大名(笑)。北条家って面白いですよね。兄弟仲が良くて、裏切り者を一人も出していませんし。

伊東 高嶋さんも北条方を演じた細田善彦さん(氏直役)、山西惇さん(板部岡江雪斎役)と「北条会」を開いていらっしゃるとか。世の北条ファンは、その話に大喜びしていますよ。

高嶋 細田くんはウチにもよく遊びに来てくれて、いまだに「父上!」って呼ばれてます(笑)。北条家もこんな感じだったのかなと思ったりして。

伊東 北条氏は一族の結束が固かったのもそうですし、織田や豊臣、徳川の上を行く近代的で優れた統治機構を構築していましたからね。ワン・オブ・ゼムの戦国大名と思われがちですけど、非常に独自性がありました。

高嶋 実は先生とお目にかかるので、先日、初めて小田原城に行ってきたんですよ。「真田丸」撮影時には機会がなくて行けずじまいでしたから。天守閣に上ったらたくさんお客さんがいらしたんですが、誰も僕に気づきませんでしたねえ。年配の女性がひとり、「役者さん……だっけ?」っていう顔をなさったんですけど、結局スルー。「俺、北条氏政やったんだけど!」って心の中で叫びました(笑)。

伊東 それは驚きです。城主なのに(笑)。

高嶋 でも実際に天守閣に立ってみたら、想像していたのとだいぶ印象がちがいました。海があんなに近く見えるとは思わなかったな。これじゃあ、小田原攻めの際には敵の船が迫って見えて震え上がったんじゃないかと。

伊東 脇坂や長宗我部の水軍は、小田原の海上を完全に封鎖していましたからね。

高嶋 僕の演じた氏政は、その海を見て平気で「籠城戦でいけるぞ」と言うんですが、演じる前にあの景色を見ていたら自信を持って「いけるぞ」とは言えなかったかもしれません。

新潮社 波
2017年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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