『クラウドガール』 金原ひとみ著

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クラウドガール

『クラウドガール』

著者
金原ひとみ [著]
出版社
朝日新聞出版
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784022514448
発売日
2017/01/06
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『クラウドガール』 金原ひとみ著

[レビュアー] 長島有里枝(写真家)

深い愛情と嫉妬、劣等感

 渋谷の路上で、高校生の杏(あん)が浮気したオミに馬乗りになって、滅茶苦茶(めちゃくちゃ)に殴るシーンから始まる。たった2ページの描写だが、人の肉にスマホがぶつかる鈍い音まで聞こえてきて、物語に一瞬で引き込まれた。思春期の制御不能な生命力と、殴りながらバックアップ取ってたっけと考える冷静さのコントラストも鮮やか。帰宅した杏は、オミと一緒にいるのは理有(りう)ちゃんの不在を埋めるためかもしれない、と思う。理有ちゃんとは、杏の姉だ。

 両親が離婚したあと、姉妹は小説家の母と暮らしていたが、二年前に母が亡くなってからは二人で都内のマンションに住む。マレーシアに半年だけ留学していた大学生の理有は、杏が渋谷で補導された日に帰国する。再び一緒に暮らし始めるが、最も近しい存在だった姉妹の関係には徐々に亀裂が生じていく。

 しっかり者の理有は、自由奔放な杏を深く愛していると同時に、自分にないものを持つ彼女に嫉妬や劣等感も抱いている。とりわけ、杏の資質のほうが母親に愛されていたという考えにわだかまりを持つ。杏は我が道を行くいっぽうで、独り取り残される不安に怯(おび)えている。母親の死の認識の相違から、姉妹はお互いに対する猜疑(さいぎ)心や鬱憤(うっぷん)を募らせ、ついにはそれをぶつけ合い、意外な「事実」が明らかにされる。

 杏の彼氏のオミや美容師の広岡、理有がデートを重ねる光也など、男性陣はあくまで二人を支える役割を担い、主軸は女同士――母、姉、妹――の関係性における課題の克服となっているのが面白い。強烈な母を持った二人は、その存在と不在の呪縛から逃れるために、それぞれ別の記憶を自分に用意する。読後は、どのような出来事にも主観的な真実があり、事実の解釈は一つとは限らないというメッセージが残る。母の桎梏(しっこく)という伝統的なテーマに、SNSやクラウドの時代における記憶や真実とはなにかを問う作者の姿勢に、真摯(しんし)で新しいものを感じた。

 ◇かねはら・ひとみ=1983年生まれ。作家。『蛇にピアス』で芥川賞、『マザーズ』でドゥマゴ文学賞を受賞。

 朝日新聞出版 1400円

読売新聞
2017年3月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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