『メーゾン・ベルビウの猫』 椿實著

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メーゾン・ベルビウの猫

『メーゾン・ベルビウの猫』

著者
椿實 [著]
出版社
幻戯書房
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784864881135
発売日
2017/01/24
価格
4,860円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『メーゾン・ベルビウの猫』 椿實著

[レビュアー] 土方正志(出版社「荒蝦夷」代表)

沈黙した作家の自在さ

 戦後焼け跡闇市時代、東京上野のどこかにアパート〈メーゾン・ベルビウ=美景館〉があった。典雅な名称ではあるが、混乱の戦後の町のアパートをネグラとするのは芸人や楽士や絵描きの若者たち。そこには絶望があり、熱がある。椿實が昭和二二年に発表した短編「メーゾン・ベルビウ地帯」はやがて一家を成す同世代の作家たち――三島由紀夫・柴田錬三郎・中井英夫――の絶賛を浴び、しばらくは文芸誌などに作品を発表するも、やがて沈黙。吉行淳之介ら仲間たちが次々と文学者として立つなか、高校教諭となる。幻の作家として終わりかねなかったが、才を惜しんだかつての同志たちによって立風書房『椿實全作品』が昭和五七年に刊行された。私たちの世代が椿實の存在を知ったこの「全作品」以来、なんと三五年を経ての「拾遺」刊行である。

 椿實は平成一四年に没。本書は「椿實全作品拾遺」とある遺品の発見が刊行の端緒となった。「全作品」未収録作に、どうやら同書刊行をきっかけに執筆された「全作品」後の作品が収録されている。前者には習作的なものもあり「全作品」収録を見送ったのかもしれないが、後者は筆致も闊達(かったつ)自在に、小説なのか随筆なのか、ちょっと艶笑譚(えんしょうたん)じみた風味もあって、にやにやしたり爆笑させられたり。幻想的・ミステリ的な作品にしろ、風俗小説的なあるいはジャンル分けなど拒否するかのような独自の世界にしろ「全作品」が硬質で研ぎ澄まされた珠玉の作品群だっただけに、晩年に向かっての闊達さと年齢を重ねたその余裕がなんとも楽しい。惜しくも未完に終わった表題作「メーゾン・ベルビウの猫」は、若き日の作品世界を晩年の目線で新たに描こうとしていたのか。どこか長谷川●二郎(りんじろう)画「猫」を思わせるカバーもまたいい。

 ところで『椿實全作品』を復刊する試みはないものか。特に若い読者に二冊揃(そろ)えて読んでもらいたいと願うのは私だけではないはずだ。

 ◇つばき・みのる=1925~2002年。東大在学中の47年、第14次「新思潮」に参加。 幻戯書房 4500円 ●=「隣」のへんがさんずいの「りん」

読売新聞
2017年3月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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