「ビリー・リンの永遠の一日」 全米批評家協会賞受賞、映画化の長編

レビュー

8
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ビリー・リンの永遠の一日

『ビリー・リンの永遠の一日』

著者
ベン・ファウンテン [著]/上岡 伸雄 [訳]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784105901349
発売日
2017/01/31
価格
2,484円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

全米批評家協会賞受賞 映画化もされた長編の真髄は

[レビュアー] 武田将明(東京大学准教授・評論家)

 主人公ビリーの属するブラボー分隊は、フセイン亡き後のイラクで「テロリスト」たちと死闘を繰り広げる。その映像が保守系メディアで流れたのをきっかけに、彼らは英雄扱いされ、本国に一時帰還する。二〇〇四年の感謝祭の日に催された大きなアメフトの試合に招かれたビリーたちは、ビヨンセとハーフタイムショーで共演させられる。

 本作は、試合会場に向かうところから会場を去るまでの短い時間におけるビリーの意識の流れを追う。といっても難解さとは無縁で、軍隊仲間との戯れ、金持ち連中とのうんざりするやり取り、チアガールとの恋愛、家族との難しい関係など、様々なトピックがユーモアと皮肉をこめて展開し、見事にまとまっている。

 筋にこれ以上触れるのは野暮だろう。ただ、過酷な軍務の合間の休暇というビリーたちの置かれた状況自体が一種のハーフタイムであり、ハーフタイムショーで頂点を迎える物語と重ねられていることは指摘しておきたい。しかも、この試合で莫大な金を稼ぐアメフトチームのオーナーは、ブラボー分隊の英雄物語でも金儲けを企む。アメリカの富豪にとって、スポーツも戦争も野心を満たす道具にすぎないのだ。

 しかし、戦場をくぐり抜けたビリーの目は、このオーナーも役割を演じるために必死なのを見逃さない。本作の諷刺の矛先が究極的に向かうのは、大富豪から一兵卒まで巻きこんで壮大な悲喜劇を演じさせる、アメリカというプロデューサーである。

 本作の世界とトランプの台頭した現代とを重ねるのは容易だ。ただ、それだけでは捉え切れないものもある。本作で野心や愛国心は、恋愛、家族愛、同胞愛と絡み合い、冷静なビリーさえも真実を見極められない。そんな彼の心の奥に広がる悲しみは、偽善的な熱狂とは別の形で読者の心を貫き、ショーの外を垣間見させてくれる。ここに本作が多くの読者の共感を得た理由があるだろう。

新潮社 週刊新潮
2017年4月6日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加