『ダークナンバー』
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青春ミステリーの旗手の新たな代表作!
[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)
二〇一一年、長篇『消失グラデーション』で作家デビューして以後、先鋭的な青春ミステリーを立て続けに発表してきた長沢樹。本書はそのジャンルの旗手が初めて挑んだ本格的な警察小説だ。
といっても、ただの捜査小説ではない。物語は東京都町田市と神奈川県相模原市にまたがる地域で発生している連続通り魔事件の顛末から始まるが、解決に導いたのは警視庁刑事部捜査支援分析センターから出張ってきた渡瀬敦子警部。彼女は自ら女子高生に扮し、囮(おとり)になったのだ。
捜査支援分析センターというのは「サイバー犯罪やインターネットによる脅迫や威力業務妨害、広域化、複雑化する現代型犯罪に対応するために数年前に設立された」部署。渡瀬はその三係の係長で、元科警研の分析官。彼女のプロファイリングが功を奏したわけだが、ただの捜査小説ではない、というのはそれゆえにあらず。実は、本書にはもうひとり、警察外部のヒロインがいるのである。
それが大手テレビ局─東都放送外信部の土方玲衣(れい)だ。土方は政治部や社会部からも引きがあるやり手だが、些細なミスを理由に海外素材版権デスクという閑職に追いやられた。しかし小柄で童顔だが、鬼姫の異名を取る彼女はその地位に甘んじてはいなかった。中学時代のワケあり同級生・渡瀬が通り魔事件で活躍したのを知っていた彼女は、渡瀬が東京西部で起きている連続放火事件の捜査に当たっているのを突き止めると、夜の看板ニュース番組のプロデューサーに掛け合い、その取材に挑むのである。
渡瀬を静とすれば土方は動、対照的な女同士の“相棒”が連続放火事件とさいたま市を中心に起きている連続路上強盗致死傷事件に隠れた未知の犯罪に迫る。捜査小説としては正統派だが、本書には報道サスペンスの妙も加味されている。活劇演出も怠りなし、最後まで一気にページを繰らせる著者の新たな代表作だ。