『神は背番号に宿る』
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あの選手の、この選手の 後姿が目に浮かぶ
[レビュアー] 立川談四楼(落語家)
球春。その季節です。この言葉に接すると、野球ファンの胸は高鳴ります。WBC(ワールドベースボールクラシック)、春の選抜高校野球と続き、いよいよプロ野球とメジャーリーグの開幕です。私はイチローの熱狂的なファンで、また彼の勇姿が見られると思うと、ワクワクドキドキが止まらないのです。
そんな時、本書が目に入りました。もう必然の読書で、開幕前のおさらい、トレーニングとしてうってつけなのです。目をつむると、往年のプロ野球選手のシルエットが浮かびます。躍動する姿ではありません。静かな後姿です。やがてクッキリ目に映るのは背番号で、やはりそれは選手の象徴なのです。
1 何とスッキリした番号でしょう、世界の王貞治です。3 ご存知ミスタープロ野球、長嶋茂雄です。この二人が突出しているため、これらの背番号をつけた他の選手の影が薄いのは気の毒ですが、本書においてはフォローされていますのでご安心ください。
エースナンバーというものがあります。スラッガーに与えられる背番号もあります。それを狙う選手、単なる記号と恬淡としている選手。背番号を巡っては選手もファンもそれぞれの思い入れが違うわけですが、さて本欄読者は江夏豊をどう評価するでしょう。
阪神タイガースの江夏か、広島カープの江夏か、そして背番号は? 28。そうですか、そうでしょう。江夏はその背番号をつけ、東京郊外の多摩市は一本杉球場のマウンドに上がります。一九八五年一月一九日、それは江夏豊の引退式でした。
甲子園でもなく秋晴れでもなく、田舎の球場の寒い日のことでした。何とそこへ一万六〇〇〇人のファンが押しかけました。そのマウンドに上がる虎のユニフォーム姿の男、もちろん背番号は28です。ああ、その一端を記すだけでもう……。どうぞじっくりご堪能ください。