不安定な時代に カジュアルに哲学に近づく一冊

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

カジュアルに哲学に近づく一冊

[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)

 最近、書店で「哲学」関連の本が目立つ。店によっては平台にコーナーが設けられていたりする。タイトルに「哲学」と入った本が多数出ていること、また手に取る読者もかなりいるということだ。なぜなのか?

 政治や経済、いや個人の仕事や家庭も先が見通せない不安定な時代だ。一方、情報だけは過剰なほど供給されている。何をどう判断しながら生きていけばいいのか、迷ってもおかしくない。そんな時、哲学が視野に入ってくる。時代や時流を超えた普遍的な価値や原理のようなものを踏まえ、自分の頭で考えるためだ。

 小川仁志〈よのなか〉を変える哲学の授業』の持ち味は、カジュアルな語り口で哲学との距離を縮めてくれること。著者の専門である「公共哲学」を足場に、自分自身と〈よのなか〉を変える方法を探っていく。それが社会活動、起業、文化、有名性、そして政治活動の5つである。

 文化の章には宮崎駿が登場する。キーワードは希望。宮崎作品における「飛行」はその象徴だ。ドイツの哲学者エルンスト・ブロッホの『希望の原理』も紹介され、文化による希望の実現の意味が示される。また小説家の事例として挙げるのは村上春樹だ。「ありふれたものを違った視点から見る」手法が、『方法序説』のデカルトと重なるという。

 日本思想の大きな流れを知りたければ、同じ著者の『日本哲学のチカラ』(朝日新書)がある。古事記から村上春樹までを概観するユニークなニッポン論だ。

新潮社 週刊新潮
2017年4月6日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク