『ポピュリズムとは何か』
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『保守主義とは何か』
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民主主義(デモクラシー)の曲がり角で、今 〈対談〉水島治郎『ポピュリズムとは何か』×宇野重規『保守主義とは何か』
グローバリズムの下で忘れられた人々の存在
宇野 ポピュリズムに対するマス・メディアの姿勢の一致から見れば、日々紙上で繰り返される政局論議は、右も左もエスタブリッシュメント側の言説であると言えるのでしょうね。トランプは、マス・メディアは既得権であり、既存のエリートたちの言説を反映し、グローバリズムの下で痛めつけられ、忘れられた人々の声は代弁していないと主張します。だからこそ記者会見をやらず、ツイッターで人々にダイレクトにメッセージを届け続けた。そしていわゆる「サイレント・マジョリティ」たちは、トランプが自分たちの思いを代弁してくれている、と喝采を送ることになる。
今や右か左かの対立のみならず、エスタブリッシュメントかそうでない側か、という対立が、立ち現われてきているんですね。
水島 二〇世紀型の政治の在り方が、二十一世紀になってかなり崩れているにも関わらず、それを見る眼鏡は過去のままではないか、という気がしています。政治社会的な構造として言われてきたのは、政党は基盤となる利益団体や支持団体を持ち、支持団体の下に人々を掌握する。その仕組みの中で上がってくる声を取りまとめ、政策を統合し、結果、政党はデモクラシーの中心で力を発揮できると。政治はこれまで、そのような構造として、捉えられていたと思います。
宇野 今でも政治学者には、そのイメージが強いかもしれない。
水島 しかし、かつてのように、誰もが労働組合、農業団体、中小企業団体、専門職団体、さらには地元の自治会といったものに所属する時代ではなくなっていますよね。二〇世紀は既成の団体の力が強かった時代です。しかもそうした既成団体は、政党と繋がることで利益を擁護してきた。団体は政党を支持し、政党は団体に利益をもたらす。保守政党、左派政党を問わず、そのようにして安定的に成り立ってきたのです。
ところが一九九〇年代後半以降、グローバリゼーションの波の中で、その仕組みが崩れていく。今ではグローバリゼーションに対応することが、右派も左派も、政治エリートの至上命題になっているのです。そういう流れの中で、足元の社会と政党がかけ離れてしまう。一方で既成の団体も足腰が相当弱っていて、人々のアイデンティティを組み取る力がない。
今の若い人々は、既成の団体に入るよりも、個人でSNSなどを活用して、ネットワークを作っていきますよね。切り捨てられたサイレント・マジョリティは、ツイッター等で直接ポピュリストリーダーへ繋がります。アメリカではトランプが有名ですが、オランダでは、右のポピュリズム政党のヘールト・ウィルデルスに七〇万のフォロワーがいます。オランダ語で発信しているので、フォロワーのほとんどがオランダ人。オランダの人口一六〇〇万人を、日本の人口に比例すれば、五〇〇万人以上のフォロワーがいるということになります。
こうした事態へのマス・メディアの本能的な反発が、ポピュリズム批判となってメディアから発信されている、とも言えるのではないでしょうか。