江戸東京の聖地を歩く 岡本亮輔 著  

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江戸東京の聖地を歩く

『江戸東京の聖地を歩く』

著者
岡本 亮輔 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784480069511
発売日
2017/03/06
価格
1,034円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

江戸東京の聖地を歩く 岡本亮輔 著  

[レビュアー] 礫川全次(在野史家)

◆アニミズムなどを目印に

 宗教学者によるユニークで魅力的な「聖地」論が登場した。

 本書を江戸東京の聖地についてのガイドブックと思ってはいけない。多くの聖地が紹介されるが、最寄り駅・地図などの情報は載っていない。だから本書を読んで、あの聖地が入っていなかったと不満を抱いてはいけない。

 著者は、独自の聖地観に基づいて解説の対象を絞り込んでいる。靖国神社に触れず、東京大神宮(飯田橋)の歴史を詳述する。三ノ輪(荒川区)では永井荷風ゆかりの浄閑寺に触れず、彰義隊士の墓碑が林立する円通寺と仏磨(ぶつま)和尚について語る。濠北(ごうほく)方面戦没者慰霊碑(九段)や太郎稲荷(入谷)など、あまり知られていないような聖地も積極的に採り上げて、解説する。

 自らの聖地観を縦横に語った本でもある。その聖地観を支えるキーワードは、アニミズム・慰霊と追悼・流行神・フィクション・塔などだ。そうしたキーワードに従って、江戸から昭和までの、信仰や供養や怪談の舞台となった寺社や塚やスポットなど、有名・無名の聖地が選ばれ、それが聖地である(あった)所以(ゆえん)が解読されてゆく。

 個々の聖地に関する解説は、微に入り細を穿(うが)つ。赤坂の乃木神社に六ページ、板橋の近藤勇墓所に七ページ、谷中五重塔跡に九ページが割かれ、高輪の泉岳寺にいたっては十八ページが費やされている。

 こうして三百ページを超えてしまった本書を読むと、百年ほど前に神前結婚式が急速に普及したのは、費用も時間もかからない合理性が評価されたからだなど、他人に語りたくなるような話題に、しばしば出会う。

 著者が聖地に注ぐ目は、クールで学問的だ。一方で本書は、読者を聖地巡礼にもいざなう怪しい魅力を持っている。本書で、地元の聖地を再発見する読者も少なくないだろう。

 蛇足だが、濠北方面戦没者慰霊碑を紹介した写真に注目したい。数々の小物がたむけられている。すでに、かなりの「ファン」がいるとみた。
(ちくま新書・1015円)

 <おかもと・りょうすけ> 1979年生まれ。北海道大准教授。著書『聖地巡礼』など。

◆もう1冊 

 鎌田東二編著『究極 日本の聖地』(KADOKAWA)。日本の代表的な聖地の起源と役割を解説し、神道・仏教などの聖地を歩く。

中日新聞 東京新聞
2017年4月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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