北村薫×宮部みゆき 対談「この面白さがわかれば、小説が書けます!」―作家生活30周年記念・秘蔵原稿公開

対談・鼎談

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北村薫×宮部みゆき 対談「この面白さがわかれば、小説が書けます!」―作家生活30周年記念・秘蔵原稿公開

新年度のスタートして早一ヶ月ですね。 何かをスタートするのに最適な時期です。今回は、北村薫さん『北村薫の創作表現講義』刊行記念として収録された、宮部みゆきさんとの対談をお届けします。この本が創作教本だと分かるか分からないかが、小説を書けるかどうかの分かれ道とのこと!? 小説家希望の方、必読です!

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 その人ならでは、の表現

北村 はじめに、このコピーを、ご覧ください。児童文学評論家の赤木かん子さんが、まだ無名のころ書いた文章です。

宮部 ご本人のお手書きのものですね。活字で組まないで、このまま図版として本に入るんですね。「かまくら」。

北村 名文ですよ。早稲田大学の授業でもこういうふうにコピーして配りました。

宮部 臨場感がありますね。北村先生の講義を直接受けているような。いいですねえ。

北村 これは赤木さんが作っていたミニコミ「烏賊」に載ったものです。この本には「水飲み場の目覚め」と「かまくら」を掲載します。今の人は、こういうことをネットのブログとかに書くんでしょうね。それだけ垣根は低くなった。昔は手で書いて、ミニコミにしていたわけですね。

宮部 いい字ですよね、これ。これはこの字で見たいですね。

北村 インターネットが出る前の手書きの印刷って味がありますね。この文章が途中で直したりしないで一気に書かれているのもわかる。

宮部 ああ、そうですね、ひと目でわかります。

北村 宮部さんもそうだと思うけど、赤木さんはこういう文章を、ひねり出すんじゃなくて、こうすーっと……。

宮部 すーっと書いているんでしょうね。

北村 こういうことができちゃうのは、すごいと思いますね。わたしなんか、書いてからかなり直しますから。また、腹から出てきているから非常に読ませる。本当に自分の書きたいことがあって、それがすっと出てきている。そういう表現の例です。

宮部 子どものころ、自分の作ったかまくらについて赤木さんが作文を書く。それを読んだ先生の評が、「ウソを書くのはやめましょう」という……。

北村 赤木さんは、大変なショックを受けた。

宮部 この先生は、いい先生だったのかもしれないけれども。

北村 正しい指導をしていると疑わない。作文でも、嘘を書いてはいけないんだと。

宮部 正しいけれどね。私も小学校の作文では怒られた記憶しかない。

北村 この「かまくら」は、二十数年前、読んだんですが、鮮やかに記憶に残りましたね。恐ろしい話だなと思いました。そう思わない人もいるだろうけど、私にはすごく恐ろしい。

宮部 恐ろしいし、痛い話ですよね。

北村 書いた方の気持ちに寄り添うとね。

宮部 かん子さんが、このことでずっと傷ついていたというのはつらいけど、「そうか、嘘を書いちゃいけないんだ」って思うような優等生じゃなくてよかったですね。

北村 よくわかりますよね。自分の作ったかまくらのことを書いているうちに、どんどんかまくらが巨大になっていく……それこそ書く者というか、つくる者の――

宮部 喜びですよね!

北村 つくる星の下に生まれた人って、そういうものだと思うんですよ。世間からは、「ウソを書くのはやめましょう」っていわれるかもしれないけど、そこに絶対の真実がある。この本ではそういう表現者を紹介しています。宮部さんのエピソードも二つほど入れさせていただきました。

宮部 書いていただきました。

北村 ある出来事があった時に、その途端に宮部さんのところへ行って、「これ書いていいですか」って聞きました。

宮部 ハイ(笑)。

北村 「巧まざる表現者」ということのいい例だと思ったわけです。この本には、私が出会ったそういう表現、創作の実例が、いろいろ、とりあげてあります。例えばこの写真集。『うめめ』、ご存知でしたか?

宮部 あ、これですね、うふふ、きゃあ、これ買います!

北村 梅佳代さんという方の写真集です。これが面白い。写真学校を出た方も含めて、日本中でどれだけたくさんの人が、ご近所写真を撮っているか分からない、でも、普通はそのまますぐに「作品」にはならない。

宮部 でも、なる人はなる。

北村 そう、不思議ですよね。表現というのは、人なんですね。私は新聞の書評で紹介された一枚の写真を見てすぐ買いに行きました。その後、大人気で、ベストセラーにもなって、写真の賞(木村伊兵衛写真賞)も受賞されたそうです。最近では人気グループ「嵐」の写真も撮っていますね。それだけ、求められる表現者になっている。

宮部 北村さんは先物買いですよね。いつも早く見つける。

北村 そんなこともないけど、この本にはそういう、私なりの発見をいくつも紹介しています。

新潮社 波
2008年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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