『植物はなぜ薬を作るのか』 斉藤和季著

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植物はなぜ薬を作るのか

『植物はなぜ薬を作るのか』

著者
斉藤 和季 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784166611195
発売日
2017/02/17
価格
950円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『植物はなぜ薬を作るのか』 斉藤和季著

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

動かないがゆえの戦略

 子供のころ、祖母や母がよく煎(せん)じ薬を飲んでいた。今、同じ薬を私もときどき飲む。昔からある生薬だ。そして毎日ボタニカルパワー(植物の力)のシャンプーで髪を洗っている。生薬もボタニカルパワーのシャンプーも、人間の身体にとって有益な植物の成分を利用して作られているものだ。では、その成分は植物自身にはどういう働きをしているのだろう。植物はなぜ、どんな目的があってその成分を作り出しているのだろう。本書は、意外と知る機会の少ないこの疑問に詳しく答えてくれる。

 植物が作る化学成分は、人類が誕生したときから薬として使われてきた。これらの薬となる植物の発見はセレンディピティー(偶然の所産)で、たくさんの植物をかじったり食べたりしながら、人間は「お薬」になる植物を見つけ出してきたわけだ。紀元前四千年~三千年頃に遡(さかのぼ)るメソポタミアの粘土板には既に医薬の記述があるという。それほど永いお付き合いなのに、「植物の力」の仕組みが解明されてきたのは、分子生物学やゲノム科学が発展してきた比較的最近のことだというから驚きだ。

 植物は動かない。自分の力で移動して生息域を広げることはできないし、外敵に捕食されても逃げることができない。多くの植物成分は、この「動かない」という選択をした植物がより上手に生き延び、より効率的に繁殖してゆくために作り出してきたものだ。それが人間にとっても役立つものだったから、多くの生薬や化学成分が発見された。植物の進化の戦略が、結果的に人類の進歩をサポートしてくれた。

 巻頭のカラー写真で、漢方薬の七割に含まれる甘草の原料ウラルカンゾウや、抗がん薬を作るニチニチソウの可憐(かれん)な姿を見ることができる。ときどき出てくる化学構造式は、著者によると「挿絵(さしえ)やイラストだと思っていい」。この分野の第一人者による解説で、植物学の歴史と最先端の知見を気軽に楽しく学びましょう。

 ◇さいとう・かずき=薬学博士、千葉大大学院薬学研究院長。日本植物生理学会賞、日本薬学会賞など受賞。

 文春新書 880円

読売新聞
2017年4月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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