『地方都市の覚醒』 山路勝彦著

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地方都市の覚醒

『地方都市の覚醒』

著者
山路 勝彦 [著]
出版社
関西学院大学出版会
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784862832320
発売日
2017/02/20
価格
5,184円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『地方都市の覚醒』 山路勝彦著

[レビュアー] 安藤宏(国文学者・東京大教授)

地方の自立支えた祭典

 明治から昭和にかけての風物詩でもあった「博覧会」は、今日、文化研究の重要なテーマである。国民国家、帝国主義のプロパガンダとしてその役割が注目されることが多いようだが、本書は国家権力の表象としてよりもむしろ、「地方」の自立の動きとしてこれを捉え直している点にその独自性がある。

 昭和の初頭に地方都市が一斉に活性化するのには理由があって、一方では輸出の不振から国産品の振興が各地に求められた事情があり、またもう一方では、鉄道網の整備がすすみ、地方都市との行き来が容易になるという背景があった。ただ、その際に興味深いのは、中央の文化が地方で身近になるのにともない、その逆の動き、つまり郷土の独自性を見直す気運が高まっていったという事実だろう。「中央」という概念が身近になって初めて、「地方」が「地方」であることの意味が再認識されるようになったわけである。

 たとえば別府温泉は古くから有名だが、これがあらたな観光資源として再編成されていく背後には自治体のしたたかな戦略があった。博覧会はその格好の舞台だったわけで、会場には露天風呂の体験コーナーまでもが設けられていたという。実はそこには今日に通じる切実な問題があって、“町おこし”のためのさまざまなヒントが隠されているように思われるのである。

 本書の核にあるのは、柳田国男の存在である。彼は決して「民俗」を伝統として特権化しようとしていたわけではない。農政官僚でもあったその発想の根幹には、地方の生活向上をめざす独自の経世済民思想が流れていた。彼は鉄道の普及をむしろ歓迎し、「都会」と「田舎」との双方向的な交流――異種混交の文化――をこそイメージしていたのである。こうした発想を下敷きにして当時の社会構造の変化を捉え直し、躍動する「地方」の息吹を生き生きと描き出して見せた点に本書の真骨頂があるといってよいだろう。

 ◇やまじ・かつひこ=1942年生まれ。関西学院大名誉教授。著書に『近代日本の植民地博覧会』など。

 関西学院大学出版会 4800円

読売新聞
2017年4月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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