小説で楽しむジェームズ・ボンド 「007」の“公認”作

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007 逆襲のトリガー

『007 逆襲のトリガー』

著者
アンソニー・ホロヴィッツ [著]/駒月 雅子 [訳]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784041042120
発売日
2017/03/24
価格
2,090円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

フレミング財団公認小説は時を忘れる一巻だ!

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

 アンソニー・ホロヴィッツといえば、コナン・ドイル財団公認作品の『シャーロック・ホームズ 絹の家』や『モリアーティ』が翻訳されるまでは、日本では専ら、BSやCSで放送されている「名探偵ポワロ」「バーナビー警部」「刑事フォイル」の脚本家として知られていた。

 ところが、本書の訳者付記によると、子供の頃から007シリーズの熱烈なファンで、自身の代表作に世界で一九〇〇万部以上売れている、一四歳の少年版ジェームズ・ボンドを主人公としたアレックス・ライダー・シリーズがあるという。

 そのホロヴィッツのもとに、イアン・フレミング財団から007の小説執筆の依頼が来たのだから、欣喜雀躍して筆をとったであろうことは想像に難くない。

 実際、フレミング亡き後、ジョン・ガードナーをはじめとして多くの作家が007を描いてきたが、本作が一番原典のタッチに近い。

 加えて、近年の007ものは、小説も映画も、時系列が滅茶苦茶だが、本書はゴールドフィンガー事件の後、一九五七年の出来事で、冒頭、ボンドがプッシー・ガロアと同棲しているのだから嬉しくなってしまう。

 今回の指令は、カーレースに出場し、英国人レーサーの命をソ連の魔手から守れ、というもの。しかしながら、これは事件の発端に過ぎず、その裏では、宿敵スメルシュと組んだ韓国人実業家シン・ジェソンのアメリカのロケット開発に対する陰謀が展開している。

 息つく間もない活劇場面にも興奮させられるが、作者もかなり楽しんで書いていると見え、ゴールドフィンガーの残党たちが、ガロアを金で塗りつぶして殺そうとしたり、前述のジェソンが、ヘマをした部下に死の花札(カード)を引かせ、殺され方を選ばせるなど、細部の趣向もフレミングばりの出来栄えだ。

 二作目の執筆も決まっているというから楽しみ。

新潮社 週刊新潮
2017年4月13日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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