『騎士団長殺し 第1部 顕れるイデア編』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
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『騎士団長殺し 第2部 遷ろうメタファー編』
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「プレイ」するから面白い! 138万部!
[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)
タイトルしかわからない状態で内容や表紙イメージ、続編の可能性までが憶測でぶんぶん飛び交い、発売前から大量重版に踏み切らせる作家がこの国にいる――今回のお題は『騎士団長殺し』。現在、二巻合わせて138万部である。
「0時発売開始カウントダウン&終夜イベントは、1881年創業の神保町本店でも初の試み。こういうスペシャルな企画が可能なのは村上春樹新刊だからです」(三省堂書店・内田剛氏)。
当日は「タワー積み除幕式」まで催行され、徹夜会には大森望氏を含む十数名が参加したというから相当なお祭り騒ぎだ。
一方、別の書店員からは「消化率は50%。前作の時は売り切れ、入荷待ちといった枯渇感があったが、今回はどこでも一等地には溢れている」との報告もある。こうした飽和状態の指摘は在庫の面にとどまらない。
「すでに20本以上出ている書評をざっと眺めると、褒める人も貶す人もみんないつも以上に“いつもと同じじゃん”と言っている」。
そう語るのは数々の春樹特集に関わってきた文芸評論家・栗原裕一郎氏。実際、押しの弱そうな主人公がそれでもテイよくセックスはしていて、音楽と料理、ふんだんな比喩に加え、小人までもやっぱり登場する。そんな前情報だけですっかり読んだ気になり、いったん手を引っ込めたひねくれ者もいるに違いない。
だが設定が同様だからといって、同一の体験をもたらすわけではない。むしろその点にこそ春樹作品の人気の秘密がある。「春樹の長編は、異界から滲み出してくる邪悪なものに打ち克ち、新たな現実を立ち上げるために連綿と続けられているプロジェクトのようなものだというのが僕の解釈。Twitterでは“ロール・プレイング・ゲームのシリーズみたいなもの”とコメントをした人がいて、うまい形容だと思いました」(栗原氏)。言われてみればこの装丁、確かに70〜80年代に流行ったテーブルトークRPGのパッケージっぽい! ――そう、どうせプレイに興じるなら、自分でページをめくったほうが面白いに決まっている。