『幸田家のことば』
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【聞きたい。】青木奈緒さん 『幸田家のことば』
■よみがえらせた家族の情景
自分はどんな言葉で育ったのだろう-。曽祖父の幸田露伴、祖母の幸田文、母親の青木玉さんから受け継いできた40の言葉を、家族のエピソードとともに紹介している。
「私が何げなく使っている言葉に編集者が『聞き慣れない』と興味を持ってくれたのが執筆のきっかけ」と明かす。
言葉は意識せずに使っているだけに、何を取り上げるか考えあぐねた。母に尋ね、祖母や曽祖父の全集を何度もめくったという。
時代が移りゆくなかで、4代にわたり言葉が残ったのは「関東大震災以降、ほぼ東京・小石川に住み続け、家族の人数が少なかったからではないでしょうか」と推測する。
言葉がよみがえらせたのは、日々の暮らしに折り合いをつけて潔く生きる、家族の情景だ。
心に芽吹いた種を大切に育てることを表現した「知る知らぬの種」からは、知ることの喜びが伝わってくる。「立つときには倍の力になる」は、苦境でも前を向くことの大切さが込められている。
「基本的に、ものごとを明るく考えようという家。古い言葉だから良いというわけではなく、ある家族に流れている時間と、それを取りまく空気を表現できていたらうれしいですね」
日々のあり方に迷ったとき力を与えてくれる言葉もある。
「人には運命を踏んで立つ力があるものだ」は、幸田文の随筆「みそっかす」に出てきた露伴のせりふ。何度も目にしていた一文だが、東日本大震災の後、改めて目にとまり、言葉の力が響いてきたという。
「言葉は個人の寿命を超えて、受け渡されていくもの。何かの折に、心のよりどころになるのではないでしょうか。どこの家にも、家族のなかで生きている言葉があるはず」
家族の口ぐせは、実は自分の生き方の指針を示す、大切な財産だと気づかせてくれる。(小学館 1500円+税)
油原聡子
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【プロフィル】青木奈緒
あおき・なお 昭和38年、東京都生まれ。著書に「ハリネズミの道」「風はこぶ」「きものめぐり 誰が袖わが袖」など。NHK放送用語委員。