帝国日本と朝鮮野球 小野容照 著

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帝国日本と朝鮮野球

『帝国日本と朝鮮野球』

著者
小野 容照 [著]
出版社
中央公論新社
ISBN
9784120049361
価格
1,782円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

帝国日本と朝鮮野球 小野容照 著

[レビュアー] 澤宮優(ノンフィクション作家)

◆白球と民族の自尊心 追う

 今年もワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が開催された。朝鮮近代史が専門の著者は二○○六年のWBCの日本対韓国戦が行われた時、ソウルに留学中だった。勝利した韓国がマウンドに太極旗を立てた光景を知ったのが本書の執筆に繋(つな)がったという。韓国が見せた敵意は、日本の植民地支配に原因があるのではないか、そのために当時のスポーツの状況も解明しなければならない、と著者は考えた。

 朝鮮半島には一九〇〇年前後にアメリカ人宣教師が野球を伝えたが、その発展には日本野球が深く関わった。日本に留学した朝鮮の学生選手が、母国で野球用語や技術を教えたのである。

 競技の面白さも手伝い朝鮮でも野球は次第に普及する。しかし日本の帝国主義下、朝鮮野球はナショナリズムと結びつくのだ。その象徴が日本人チームとの対戦だった。一九一四年に朝鮮人チームの五星倶楽部(クラブ)が日本の龍山鉄道倶楽部に劇的なサヨナラ勝ちをした。歓喜する朝鮮人に日本人観衆は腹を立て、暴行事件を起こす。「日本人最強チームの龍山鉄道倶楽部に勝利したことは、支配者の日本人に対する劣等感を払拭(ふっしょく)し、民族的自尊心の回復に結びつく。だからこそ、朝鮮人観衆はこの勝利に狂喜乱舞した」と分析する。

 朝鮮では圧政下でも屈せず独自に野球を発展させた。朝鮮人学校の徽文中学は二三年の全国中等学校野球大会でベスト8に残った。四〇年には都市対抗野球で全京城が優勝した。

 「今日に至るまで朝鮮半島で野球が根付いているという現象もまた、植民地支配の産物なのである」という末尾の洞察は示唆に富む。朝鮮野球は「民族的スポーツ」であると述べる。そこが「国民的スポーツ」である日本野球と違った韓国野球の核がある。一次史料を駆使し、客観的な姿勢に終始しながら、史実を明らかにする手法は見事だ。近代アジア史としても貴重であり、それが本書の魅力になっている。
(中公叢書・1782円)

<おの・やすてる> 1982年生まれ。京都大助教。著書『朝鮮独立運動と東アジア』。

◆もう1冊 

 大島裕史著『韓国野球の源流』(新幹社)。日本統治時代以来、韓国で野球を広めた金永祚や金星根ら在日コリアン選手の群像を描く。

中日新聞 東京新聞
2017年4月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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