ダーク・ドゥルーズ アンドリュー・カルプ 著

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ダーク・ドゥルーズ

『ダーク・ドゥルーズ』

著者
Culp, Andrew大山, 載吉
出版社
河出書房新社
ISBN
9784309247823
価格
2,640円(税込)

書籍情報:openBD

ダーク・ドゥルーズ アンドリュー・カルプ 著

[レビュアー] 平井玄(評論家)

◆つながりの閉塞破れ

 ついテレビをつけながらスマホも見てしまう。そんな人が多い。日米の政治家たちが演じる三文芝居、と思いながらもネットをサーフィンする。みんな憑(つ)かれたようにそんな仕草(しぐさ)を繰り返している。CMも、アップルやグーグル、携帯電話やネット通販ばかり。画面には放射性廃棄物が詰まった袋の山も沖縄を囲む基地の金網も映らない。世界中がこの「つながる」というマジナイに取り憑かれている。壁を築いて黄金のタワーからツイッターする大統領や「イスラム国」、オリンピックが大好きな老若左右貧富の人たちまで。この「未来」を否定したらただちに「退場」のレッドカードだ。

 この「つながり至上主義」こそが敵。ビッグデータや「もののインターネット」が切り開く「明るい未来」をぶち壊せ! これが本書の大胆不敵な主張である。現代思想の巨魁(きょかい)、ジル・ドゥルーズが去ってもう二十二年。かつて「リゾーム」などの言葉で「つながる世界」を肯定するとされた彼の思想は実現したのか? いや私たちはネットの奴隷だ。「既にしんでいる」とすら著者は言う。この残酷な世界を肯定するもう一人の「破壊的ドゥルーズ」が潜んでいる。崩壊の先にしか別の世界はない、と言う。

 その力業に日本の気鋭の研究者たち四人も懸命に応答する。私たちが抱える「どんづまり感」がこの本を読ませる。

(大山載吉訳、河出書房新社・2592円)

<Andrew Culp> 米国テキサス大ダラス校客員助教授。

◆もう1冊

 小泉義之著『ドゥルーズの哲学』(講談社学術文庫)。二十世紀後半を代表する思想家の「差異」の哲学を読み解く。

中日新聞 東京新聞
2017年4月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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