デビュー40周年でブーム さまざまな「竹本健治」が楽しめる一冊

レビュー

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しあわせな死の桜

『しあわせな死の桜』

著者
竹本 健治 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784062203883
発売日
2017/03/15
価格
2,376円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

時ならぬブームのさなか 15年ぶりの短編集

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 デビュー40周年の今年、竹本健治がにわかに熱い。天才囲碁棋士・牧場智久が活躍するシリーズの最新長編にして暗号ミステリの金字塔『涙香迷宮』が、昨年末、「このミス2017」国内編で堂々の1位を獲得。その後、今年2月から、牧場智久の初登場作『囲碁殺人事件』に始まるゲーム三部作(『将棋殺人事件』『トランプ殺人事件』と続く)の新装版を講談社文庫が出しはじめたところ、たちまち増刷に次ぐ増刷。いちばん驚いているのは、長年の竹本ファンと著者自身かもしれない。

 時ならぬこの竹本ブームのさなか、満を持して刊行された本書『しあわせな死の桜』は、『閉じ箱』『フォア・フォーズの素数』以来、なんと15年ぶり3冊目の短編集。幻想小説から正統派の犯人当てまで、03年以降に書かれた12編を収める。

 竹本ファンにとって最大のボーナスは、この本のために書き下ろされた「トリック芸者 いなか・の・事件篇」だろう。著者自身や周囲の作家たちが実名で登場するメタミステリ『ウロボロスの偽書』の作中作として始まった短編シリーズの新作で、埼玉の置屋・志(し)ら小屋(こや)に属する5人の個性的な芸者たちが主役をつとめる。中でもつねに事件の鍵を握るのは、「そこはそれ〜」が決め台詞の酉(とり)つ九(く)。今回は「銭形平次」風のテーマソング(女なりゃこそ謎かけまする/かけて縺(もつ)れた帯も解く云々)まで披露しつつ、5人は黒牛に引かせた山車に乗り、山間部の閉ざされた村の宴席へと乗り込んでゆく。

「妖かしと碁を打つ話」は、平安時代の囲碁名人・寛蓮(かんれん)が見知らぬ女の家に呼ばれて碁を打ったところ、こてんぱんにされた―という実在の説話(『今昔物語集』の一編)の謎に迫る出色の囲碁ミステリ。佐藤友哉〈鏡家サーガ〉トリビュートの特殊設定ミステリ「漂流カーペット」で明かされる真相もすさまじい。竹本健治のさまざまな顔が楽しめる、まさに15年に一度の作品集だ。

新潮社 週刊新潮
2017年4月20日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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