[本の森 ホラー・ミステリ]『果てしなき追跡』逢坂剛/『そのときまでの守護神』日野草ほか

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 果てしなき追跡
  • そのときまでの守護神
  • 天上の葦 上
  • 天上の葦 下

書籍情報:版元ドットコム

[本の森 ホラー・ミステリ]『果てしなき追跡』逢坂剛/『そのときまでの守護神』日野草ほか

[レビュアー] 村上貴史(書評家)

 警察小説やハードボイルドなどの書き手として知られる逢坂剛は、西部劇の愛好家でもある。その想いをたっぷりと注ぎ込んだ『アリゾナ無宿』及び続篇『逆襲の地平線』から一〇年以上が経過した本年、著者の西部小説第三弾が久々に発表された。『果てしなき追跡』(中央公論新社)である。土方歳三は箱館で銃弾を受けて記憶を失ったものの命は落とさず、同郷の時枝ゆらという少女とともに米国に渡ったという設定の物語であり、『アリゾナ無宿』の前日譚にあたる。箱館の死闘から米国商船による太平洋横断を経て西部での逃避行に至るまで、危機また危機の連続であり、六〇〇頁近い長篇を一気に読まされてしまう。まさに痛快娯楽小説である。本書の続篇の雑誌連載が夏から始まるとのことだが、それを待つことはないし、『アリゾナ無宿』を先に読んでおく必要もない。今すぐ読んで今すぐ愉しい一冊だ。

 野性時代フロンティア文学賞受賞の『ワナビー』でデビューし、受賞後第一作『GIVER 復讐の贈与者』も高く評価された日野草。その最新作『そのときまでの守護神』(徳間書店)は、“芸術”の価値について考えさせられる一冊だ。女性造形作家TOKIWAのマネージャーである篠原健は、“泥棒の守護神”に彼女の遺作の入手を手伝って欲しいと依頼した。そうしないと遺作が棺とともに燃やされてしまうからだ……。登場人物の心と読者の心を冷酷かつ徹底的に弄ぶ著者の凄味は、芸術という好材料を活かして、この作品でもたっぷりと発揮されている。またもしてやられたが、またも驚き、またも満足である。

 一九九七年から脚本家として活動を開始し、TVドラマ『TRICK』『相棒』などのヒット作や、直近では映画『相棒 劇場版IV』などを手掛けてきた太田愛が、圧倒的読み応えのクライムサスペンス『犯罪者 クリミナル』という一五〇〇枚の長篇で小説家としてデビューしたのは、二〇一二年のこと。翌年発表した『幻夏』がはやくも日本推理作家協会賞の候補となるなど、小説家としての力量も高く評価されてきた。故にその実力は十分に認識していたが、それでもなお一八〇〇枚という長篇第三作『天上の葦』(KADOKAWA)には打ちのめされた。渋谷のスクランブル交差点で一人の老人が空を指さして事切れたという発端から、物語は目まぐるしく動き続ける。展開はスピーディーだが物語の幹は骨太でどっしりしている。つまりは抜群に優れた小説なのだが、そのなかで太田愛は登場人物(『犯罪者』以降のおなじみの面々もいる)の心に深く入り込み、ある巨大な犯罪をくっきりと生々しく描き出している。その怖ろしさは、一人でも多くの方に体感して戴きたい類のものだ。全身全霊でお勧めする次第である。

新潮社 小説新潮
2017年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加