『出会いなおし』 森絵都著

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出会いなおし

『出会いなおし』

著者
森 絵都 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784163906201
発売日
2017/03/21
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『出会いなおし』 森絵都著

[レビュアー] 朝井リョウ(作家)

長い目で捉え直す過去

 今、人間から最も失われつつある行動は「待つ」だと聞いたことがある。閲覧したいページにアクセスできない十秒間を、電車が来ない五分間を、待てない自分を私は知っている。初動の売上が芳しくない本はすぐに書店から消え、ノルマを達成できない社員はすぐにクビになる。待てない私たちは、短期的に結果を出すことを求められ、長期的な目線で何かに向き合う機会を手放しつつある。

 この物語の登場人物たちは、過去に出会った人にもう一度出会う。クリエイター人生初の個展に姿を現した、七年以上ぶりに顔を合わせるかつての担当編集者。自宅の玄関で会う、電話では失礼な対応を振りかざしてきたスーパーの売り場チーフ。同窓会で居合わせた、小学生時代のトラウマを共有している同級生。時空を超えた再会により、もう更新されないと思っていた過去に現在が手を伸ばしていく。やがて過去と現在は思いもよらない曲線で結びつき、そこに横たわる全てをやっと肯定できるようになるのだ。関わり続ければ印象が好転するかもしれないのに、一度負の感情を抱いた対象とはそれ以上関係を持続させない――そんな、モノと情報が溢(あふ)れかえる現代を楽に生き抜く方法に手を染めかけていた私は、目が覚めた思いがした。

 中でも、自身が交通事故に遭う間際に亡き妻との日々を思い返す「青空」が素晴らしい。磨き上げられた構成に思わず詠嘆の声が漏れる。

 著者は、直木賞受賞後、十年計画で短篇(たんぺん)を執筆してきたという。その集大成がこの一冊なのだが、中には、「ママ」「テールライト」など著者の過去作とは全く空気感の異なる作品も収録されている。十年かけて短篇小説というものに何度も何度も出会いなおした著者だからこそ到達できた境地なのだろう。著者のように今まで出会ったものたちを点ではなく線で捉え直すことができたら、私たちの人生の輪郭は予想外の形に変貌するのかもしれない。

 ◇もり・えと=1968年東京都生まれ。『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞。他に『みかづき』など。

 文芸春秋 1400円

読売新聞
2017年4月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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