『神田神保町書肆街考』 鹿島茂著

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神田神保町書肆街考

『神田神保町書肆街考』

著者
鹿島 茂 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784480815323
発売日
2017/02/23
価格
4,536円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『神田神保町書肆街考』 鹿島茂著

[レビュアー] 苅部直(政治学者・東京大教授)

古書店街の来歴を探る

 東京の神田神保町の名前は、地下鉄の駅名に記されたルビによれば「かんだじんぼうちょう」と発音する。週に一、二回は通っている場所であるが、その町名が何に由来するのか考えたことがなかった。最も多かった時代、一九三〇年代には二百軒もの古本屋が軒を連ねた世界最大の古書店街である。歩いていても店先の本に気をとられてしまい、その土地の来歴にまで想像が及ばない。

 学生時代からこの町に親しみ、勤務先や居住地としても長らく過ごした著者が、歴史探偵ぶりを存分に発揮し、町の来歴を調べあげて記した大著である。かつて神保という旗本の屋敷がそこにあったから神保町。徳川時代には武家が住んでいた土地が、明治になっていくつもの学校・大学の用地に転じ、その学生たちを顧客にあてこんで、古書店が集中するようになった。それが古本の町の誕生である。

 この本は、多くの回想や古地図をふんだんに参照しながら、古書店主たちと客としての学生や収集家、その双方の群像を生き生きと描く。歴史探偵の面目躍如と言うべきだろう。だが、通常の古書店街の発展史にとどまらず、その周辺の事柄についても探偵の目を届かせている点が、さらに魅力を添える。大学とともにこの地区に集中した予備校と語学学校。中華街や映画街としての発展。一九七〇年代から出現したスキー用品店。さまざまな側面を一つ一つていねいに調べて、地域に関する分厚い全体史を作りあげている。

 老舗の書店や取次の閉店など、時代が現代に近づくほど、暗い話題が多くなってくる。今後は古書店街も大きく変わってゆくだろうが、同時に新たな種類の商売もそこに生まれ、さまざまな人が訪れて、また別の特色をつけ加える。神保町という地域の多面性を雄弁に語る筆致からは、そんな希望も立ち現れてくるような気がした。

 ◇かしま・しげる=1949年横浜市生まれ。仏文学者。明治大教授。『職業別パリ風俗』で読売文学賞。

 筑摩書房 4200円

読売新聞
2017年4月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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