<東北の本棚>事後対応に「対話」必要

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新しい学校事故・事件学

『新しい学校事故・事件学』

著者
住友, 剛, 1969-
出版社
子どもの風出版会
ISBN
9784909013002
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

<東北の本棚>事後対応に「対話」必要

[レビュアー] 河北新報

 教員にとって最も大事な心構えは「朝、受け入れた状態で子どもたちを帰す」ことだという。一読後、教員養成校に勤める大学教員の言葉を思い出した。
 命を預かる学校が「受け入れた状態で帰せなかった」事例を基に、本書は学校における重大事故・事件の事後対応と再発防止の在り方を論じている。
 著者は京都精華大教授(教育学)。兵庫県川西市・子どもの人権オンブズパーソンの調査相談専門員を務め、1999年7月に起きた同市立中ラグビー部での熱中症死亡事故の調査・検証作業に関わった。以後、学校事故・事件で命を失ったり、重い障害を負ったりした子どもの遺族・家族という当事者の視点で、従来の学校事故・事件研究の在り方を問い続けてきた。
 本書は真相究明を求める遺族・家族側と、事態の沈静化を優先するあまり、自己防衛に走る学校側との認識のずれを図式化。従来の事後対応が「二次被害」を生んできたのは、両者に「対話」と「記憶の共有」が欠如していたためだと指摘する。
 東日本大震災の津波で児童74人と教職員10人が死亡・行方不明になった石巻市大川小を巡る訴訟でも、遺族側は「真相究明など市教委の対応は不適切」と主張し、事後対応の不備を控訴理由の一つに挙げる。
 著者はこれからの事後対応について、「子ども」を核にした学校コミュニティーの再生が必要と強調し、再発防止を願う人々のつながりを構築すべきだと訴える。
 学校での重大事故や事件が「公教育というシステムの破綻や不調を示す」(著者)とするなら、子どもたちの命を預かる全ての教育関係者にとって必読の書といえよう。
 子どもの風出版会04(2959)8500=2160円。

河北新報
2017年4月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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