<東北の本棚>世直し求め立ち向かう

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清十郎の目

『清十郎の目』

著者
吉村 龍一 [著]
出版社
中央公論新社
ISBN
9784120048425
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

<東北の本棚>世直し求め立ち向かう

[レビュアー] 河北新報

 東北の農村が飢饉(ききん)に見舞われた昭和初期の山形県最上地方を舞台に、旅篭(はたご)町に暮らす物乞いや飯盛り女といった貧困層の人間模様を描いた小説だ。商人や軍人ら富裕層との対比を通し、貧しさの悲哀や理不尽な定めに焦点を当てる。「罪のない者が辛(つら)い目に遭わされ、罪深い者が贅沢(ぜいたく)に暮らす世の中」に対する著者の怒りが随所ににじむ。
 主人公の清十郎は河原で暮らす10代の青年。生後間もなく漁師に拾われた。年配漁師とともに川で漁をして暮らす。稼ぎはわずかで安定せず、時には街で残飯をあさって空腹を満たす。飢饉により生家が困窮し、家族のために自ら身売りして飯盛り女となった桔梗(ききょう)との出会いと触れあいを軸に、物語は進む。
 清十郎ら漁師が捕るマスを使った料理が人気となり、仕入れ先の料理屋は巨利を得る。ある晩、清十郎は偶然、酒に酔った料理屋の若旦那が漁師をさげすむ発言を耳にする。若旦那はその日、誤って川に落ちて死ぬ。
 一部始終を目撃した清十郎はふと足を運んだ寺で桔梗らと出会う。寺は貧民解放運動の拠点で、住職の剛寿が指導者だった。
 剛寿と関わるうちに、清十郎は不平等な社会に疑問を抱き、自分の生き方を見つめ直す。寺の住み込みとなった清十郎と桔梗は互いに引かれ合い、いつしか共に恵まれない子どもたちのために保育所を開くという夢を抱く。
 その頃、県令と地元の建設業者との癒着が取りざたされていた。作業員に過酷な労働を強いる業者。死者や脱走者が相次いだ。剛寿らは「世直し」をうたい、業者を襲撃するため武力蜂起する。疑問を抱きつつ清十郎も加わるが-。
 著者は1967年南陽市生まれ、同市在住。陸上自衛隊を経て同市職員を勤めながら執筆を続ける。「焔火(ほむらび)」で小説現代長編新人賞。著書に「光る牙」「海を撃つ」など。
 中央公論新社03(5299)1730=1836円。

河北新報
2017年4月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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