『錆びた太陽』
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原発事故後の日本をコミカルに描く『錆びた太陽』恩田陸
[レビュアー] 円堂都司昭(文芸評論家)
『太陽を盗んだ男』という映画があった。原発からプルトニウムを盗み小型原爆を手作りする話だった。核エネルギーを太陽に喩えることは昔から行われている。恩田陸『錆びた太陽』の書名もそれに連なる比喩である。同作では、二十一世紀半ばの「最後の事故」まで日本で原発事故が数回あった設定になっている。舞台となるのは、その後の汚染地域だ。
立入制限区域をパトロールするのは、人型ロボットのチームだった。そこへ訪れたのが、国税庁の名刺を差し出した財護徳子。正確で無感情な電子頭脳を持つロボットたちは、この若い人間の女に戸惑う。彼らは合理的な思考をしつつ、人間を守り、人間の命令に従い、それらに反しない限り自分を守るというロボット三原則を厳守しようとする。また、原則遂行に際しては、人間は不安定で、しばしば過ちを犯し、合理的ではない行動をするという三前提が組み込まれている。非合理でちぐはぐな言動を繰り返す徳子は何をしに来たのか。マルピーと呼ばれるゾンビもいる汚染地域で何が起きているのか。
ロボット、人間、マルピーという思考のありかたが違うもの同士の接触が、奇妙な滑稽さを生む。ロボットにはボス、マカロニ、ジーパンなど、昭和の人気ドラマ『太陽にほえろ!』に登場した刑事のニックネームと同じ名がつけられていた。彼らを作った人間が、お遊びの懐かしネタをあれこれ仕込んでいたのだ。そのせいもあって、原発事故後のシリアスな状況を描いた小説なのにコミカルなノリで終始する。そして、読者は笑っている合間に、正確で合理的なはずだった原発を作ったのは、不安定で合理的ではない人間だったと思い出すことになる。