平将門VSサイコパス――高田崇史×中野信子〈『鬼門の将軍』刊行記念対談〉
対談・鼎談
『鬼門の将軍』
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平将門VSサイコパス――高田崇史×中野信子〈『鬼門の将軍』刊行記念対談〉
高田 僕が中野さんを知ったのは、NHK-BSで「英雄たちの選択」という番組を拝見した時なんです。歴史のターニングポイントでどのような行動を取るかという番組でした。
中野 たとえば関ヶ原の合戦で、秀忠軍を待つか、水攻めをするか、野戦をかけるかという選択を出演者に迫るんです。今は二択ですが、以前は三択で。
高田 僕は家で寝っころがって見ていたんですが、なんと六回連続で中野さんと答えが同じだった。これは三の六乗分の一だから、七二九分の一の確率です。計算合ってるかな。
中野 たぶん合ってます。
高田 そんな確率で同じことを考えている人がいることに驚きました。それで『七夕の雨闇』という面倒くさい本を出した時に、本の帯の推薦文をお願いしたんです。歴史好きは間違いないし、それならミステリーも好きだろうと。
中野 自称ミステリー好きという程度ですから、あまり突っ込まないでいただきたいのですが、何といっても高田さんは、私の憧れのメフィスト賞受賞作家なんですね。そんな方からの依頼ですから、小躍りしてお引き受けしました。
高田 その後、書評も書いていただいて。
中野 ペンネームも素敵ですよね。「崇」って、あまり名前に使わない字だと思いますが、崇徳天皇のイメージですか。
高田 画数を三島由紀夫に合わせたんです。三十一画。中野さんと初めてお目にかかった時も、お互い三島ファンだという話をしましたね。僕なんか、爪切りも関の孫六ですよ。三島が割腹したときの刀と同じ。これがよく切れるんだ。
「ひらめき」の三条件
中野 高田さんは凄いスピードで本を出しておられますが、そこに常に通底するテーマは「まつろわぬ民」ですね。歴史の「正史」でないところを見つめて、それをミステリーに仕立てて面白く読ませてしまう。あのような歴史の秘密を、どうやって次々に思いつくのでしょう。
高田 本当にひらめきというか、神様が教えてくれるんですね。及ばずながら一所懸命に考えていると、神様が「何も知らないでかわいそうな奴だ」と憐れんでくれるんでしょう。デビュー作の『QED百人一首の呪』は、車を運転していて赤信号の時にひらめいたし、二作目の六歌仙の話は、夢の中で思いついたことをそのまま書いてしまった。
中野 人工知能のアルファ碁がトップ棋士を負かしたというのが話題になりました。ただ、これは厖大なデータベースの中からこの一手を選んでいるので、データが蓄積されないと勝てないというのが、人工知能の研究者のコンセンサスだと思います。厖大なデータベース、あるいは力ずくの計算で、ひらめきに至るのか至らないのか――。これはまだ議論のあるところで、ひらめきが人間にとって最後の砦なのではないかと言われています。
高田 僕は何も考えずに取材旅行に行って、神社・温泉・地酒という三条件をクリアすると、ひらめくことが多いですね。
中野 ラマヌジャンという天才数学者がいましたが、この人はやはり女神さまが数式を教えてくれたそうです。数式がひらめいた後で、一所懸命、証明しようと苦労する。その繰り返しだったとか。
高田 ひらめきは〇・五秒くらいで来るわけで、それがどうしてそうなるのか考えて、半年かかったりします。しかも、そのひらめきが正しいかどうか、その時点では分からないんですね。没になったのも、いくつかありますから。それは世に出ないから、百発百中に見えるだけで。
中野 今回の『鬼門の将軍』(新潮社二月刊)のテーマは平将門ですが、今までの解釈を覆すこのアイデアはどこから来たのでしょうか。
高田 それが全然わからない。でも、ひらめきやすい場所というのが古来あるらしくて、鞍上(あんじょう)、枕上(ちんじょう)、厠上(しじょう)が三大ひらめきやすい場所。今ならお風呂とかね。
中野 デフォルト・ネットワークですね。パソコンでいうとスリープ状態。脳は、ぼうっとしている時や休んでいる時も、六〇パーセントくらいは活動しています。脳が集中して活動している時は、当面の作業以外に注意が向かないのですが、デフォルト・ネットワークの時は注意が散漫なので、かえって発想同士が結びついたり、新しい発想が生まれやすい。それが、鞍上や枕上なんです。ラマヌジャンが女神の姿をとって現れたと語るのも、このことなのでしょう。
高田 だからお酒とかもいいんだな。
中野 ほろ酔いくらいならいいかもしれないですね。