『ライムスター宇多丸の映画カウンセリング』
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【『ライムスター宇多丸の映画カウンセリング』刊行記念対談】そうだ! 宇多さん、スーさんに聞いてみよう
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四〇代、男性。何かにつけて正解を求めてしまいます。仕事の進め方、息子の叱り方、パブリックスペースでの振る舞い方等々。私の行動はこれでいいのかと常に不安になります。
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ジェーン・スーさん
スー これけっこうわかります。
宇多丸 子育てなんか特に、正解がないって頭ではわかっていても、皆さん悩まれているだろうなと。
スー 正論としては「正解というのはなくて、自分が選んだものを自分で正解にしていくしかないんだよ」と私はいつも言っています。
宇多丸 第三者の意見をもらうような機会はないんですかね。
スー それもまた、誰に聞くかによるから難しい。
宇多丸 そのチョイス自体が、誰に聞くのが正解なのかってなるよね。
スー 正解地獄ですよ!
宇多丸 だから複数の人に聞けばいいじゃんって。そうするとだんだん、あいつの正解とこいつの正解が全く違うじゃねえかみたいになってきて、世界の認識が雑になっていく。
スー そうですね。人それぞれ、正解は違うんだって。
宇多丸 そう。もう一つ万能回答がありました。「人それぞれ」(笑)。程度によりますけど、何が正解か、考え続けているって悪いことじゃないんじゃない?
スー ある程度までだったら健全ですよね。これが正しいのか、あれが正しいのかっていう、いろいろな視点を持っているということですもんね。
宇多丸 例えばパブリックスペースで子供がマナーに反する行動をしてたりしますけど、俺、そういうときにどうすべきか、それこそすごい悩むんですよね。
前に、銀行のATMの床で、知らない子供がおもちゃの車で遊んでたことがあったんですよ。さあどうしようかと。他の人たちもかわいいねって甘やかしてて。まぁいいかなと思ってたんだけど、そのうちその子が調子に乗ってきて、全然関係ない人のATMの機械の足元に入ってじゃれつき始めたわけ。
「今、おまえは一線越えた!」と(笑)。ここは顰蹙を買うかもしれないけど言うべきだと思って、「坊や、もうお兄ちゃんなんだからさ、もうちょっと格好よくいけるでしょう」と言ったんですよ。頭ごなしに叱るんじゃなくて、すごく配慮した僕なりの“正解”を。そしたら、恥ずかしそうにして止めてくれた。ただ、その子のお母さんは何も言わないんです。「すみません」もなし。何なら「はあ? 何介入してきてんの」みたいな。そんぐらいのバイブスを出してきているわけ。俺は、いや、日本の未来を考えたらこれが正解なんだ。俺が言わなかったら「マッドマックス」みたいな世界になっていくんだ! と心の中で(笑)。
スー 逡巡があったとして、そこで思い切るっていうことも大事ですね。
宇多丸 そうそう。ただ、公共の場でガキが騒ぐのは許さんとか、そういう正解の決めつけもよくないし。難しいなと思いながら行動しましたが、その難しいなと悩むぐらいがいいのかなと。
スー 仰るとおり。これが正解だって過信していることの方がよっぽど怖いです。
宇多丸 そうですよね。決めつけるんじゃなければ、正解を求めるのはいいんじゃね? ということでいかがでしょうか。