「WIN-WIN」など目指さない? 相手を納得させる「バリュークリエイト交渉術」とは?

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「WIN-WIN」など目指さない? 相手を納得させる「バリュークリエイト交渉術」とは?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

なぜあの人が話すと納得してしまうのか? ―価値を生み出す「バリュークリエイト交渉術」』(大森健巳著、きずな出版)の著者は、伝説のマーケティングコンサルタントであるジェイ・エイブラハム、世界一のサクセスコーチとして知られるアンソニー・ロビンズ、交渉学の権威であるスチュアート・ダイアモンドらから学びを得てきたという実業家。

地道に実績を積み上げてきた結果として、従来の交渉の概念を覆す「バリュークリエイト交渉術(VCN)」というコミュニケーション法を身につけることができたのだそうです。

私はこのスキルを得たおかげで、交渉相手が何を考えているのかを理解し、相手を動機づけるために何が必要なのかを簡単に理解できるようになりました。(中略)それは、誰を相手に交渉をしたらいいのかという「最高の戦略」と「最高の動機づけ理論」です。

MBAを取るような人でなくても、誰もがすぐに実践できるシンプルなモデルにしたい。こうしてできあがったのが「バリュークリエイト交渉術」です。(中略)
これまで交渉について学んだことのない人たちでも、学んだその日からすぐに成果をあげることができること。小手先のテクニックではなく、奥深さを求める人にはさらなる可能性を広げてくれる拡張性のある世界。これが私の目指すとことです。(「Prologue 交渉を制するものが人生を制する」より)

きょうは「Chapter_1 無敵の交渉人」のなかから、バリュークリエイト交渉術の基本的な部分を検証してみたいと思います。

交渉の達人は交渉をしない

たとえば相手から「支払いの条件について”交渉”させてください」などといわれると、「負けてなるものか」と、相手と条件について駆け引きをしようという気分になるもの。ところがこうした競争的な思考の枠にとらわれてしまうと、お互いに本当はもっと大きな取引ができたはずなのに、チャンスを逃してしまうことになるといいます。

つまり駆け引きの交渉で相手より優位に立つことばかりに焦点が向いてしまい、本来なら手に入るはずだった価値創造の機会をお互いに失ってしまうということ。

そのため著者は、そのように競争的な心理状態に陥らないように、あえて交渉という言葉を使わず、「価値想像する」「バリュークリエイトをする」または「VCNをする」といった表現を使い、競争を連想させないように心がけているのだそうです。

最大のポイントは、心理的にも雰囲気的にも、駆け引きをするような交渉をしないように心がけること。そこで、相手が「駆け引き型の交渉」をしてきたときには、次のようにいうのだそうです。

「そうですね。ではお互いにどんな価値想像をできるかやってみませんか?」(29ページより)

このように交渉の達人は、協力的な状態をつくるために努力し、駆け引きや狭い範囲の交渉にハマらないよう気をつけながら会話をするというわけです。相手を理屈で打ち負かしたり、トリッキーな論理でだまして「俺は交渉がうまい、交渉に強い」と豪語する人もいますが、それは一時だけの勝利に過ぎないということ。

そして価値想像型の交渉のポイントは、「なにかお役に立てることはありませんか?」というフレーズを使うこと。価値想像をするためには、相手の立場で考えることが大切なのかもしれません。(28ページより)

「WIN-WIN」など目指さない

バリュークリエイト交渉術では、「WIN-WIN」を目指した交渉はしないのだといいます。「交渉する」際には、「お互いにWIN-WINとなるように」という言葉がよく出てくるもの。しかし著者はこの言葉を聞くたびに、「古いな」「怪しいな」と感じてしまうというのです。

理由は簡単で、こうしたことをいってくる相手は多くの場合、口では「WIN-WINで」というものの、実際にはこちらからなるべく多くのものを奪おうとしてくるから。本当は、「自分だけWINで」といっているに過ぎないというのです。

そして「古いな」と感じるもうひとつの理由は、この概念が核戦争の緊張感があった1960年代に登場したもので、ほとんど意味のない慣用句として使い古された印象があるから。そうでなくとも、交渉をするときに勝ち負けをベースにすること自体がおかしいと考えることもできます。

大事なのは「自分の目的を達成すること」であり、つまり勝ち負けなどはどうでもいい話。「WIN」や「LOSE」という言葉の前提としてあるのは、「相手は自分の敵」という敵味方の関係だということです。

バリュークリエイト、つまり価値想像型の目指す交渉は、合気道のようなコミュニケーションであり、交渉相手を「敵」とは考えません。
交渉技術を通じて相手との対立を解消することに力を注ぎます。
たとえば交渉相手が、あなたより自分のほうが優れていると思っていたとします。
それならかまわず認めてあげたらどうでしょう。
私のほうが早かった、強かった、偉かった。なんでも結構ですが、相手がそれを認めさせたいのなら「そうですね」と言ってあげればよいのです。
逆もまたしかりです。
あなたが勝ってもいいのです。
負けた相手はくやしかったら次はもっと強くなってくるでしょう。倫理的で合法的で人々の幸せを邪魔しないことであれば、自由にやっていいのです。(36ページより)

もちろん、こうした考え方に賛否があるだろうということも著者は認めています。しかしそれでも、無理に聖人君子になる必要はないと考えているのだそうです。とはいえ実際には、相手に価値提供をするバリュークリエイト交渉術をしていくと、結果的に「WIN-WIN」になることばかりだそうですが。

でも、ここで大切なのは「これは結果であり、目的ではない」ということ。勝ち負けにこだわっていては、価値想像のチャンスを見失い、小さなパイ(利益)を奪い合うことになってしまうわけです。だからこそ「相手にどう勝つか」という発想を捨て、「相手とどう協力してその利益を拡大できるのか」と考えるべきだというのです。(35ページより)

バリュークリエイト交渉術は、相手に力を与える

交渉相手に勝とうとする場合は、なるべく相手が不利になるように考えるもの。駆け引きの交渉において、それは当たり前のことでもあります。相手をコントロールしたいのなら、相手の力が強いと困ることになります。だから相手は、なるべくこちらのいいなりになる力のない人のほうがいいという発想です。

また、勝つために恩着せがましく話したり、条件を決めるのは自分だとばかりに権力をかざしたり、知識が豊富だとひけらかしたり、脅したりする人もいます。しかしそうではなく、逆に相手に力を与えてしまう。それがバリュークリエイト交渉術の特徴だというわけです。

相手をコントロールする代わりに「あなたが決められます」と言うのです。「あなたには力があります」と伝え、相手の権威を認め、判断に必要な情報を提供します。
つまり駆け引きの交渉と逆のことをすれば、相手に力を与えることになります。(40ページより)

「そんなことをしたら困るのではないか?」と感じても不思議ではないでしょう。たしかに駆け引きゲームの相手に力を与えたら、こちらは負けてしまいます。しかし相手が敵ではなく、一緒にがんばるチームだったとしたら、むしろ力を与えるべきだという考え方なのです。

相手に力を与える交渉により、さまざまな恩恵を受けることができるようになるといいます。人はひとりの人間として扱われると、そうでない場合とくらべて6倍相手を助ける確率が高くなるのだとか。つまり暖かい心で積極的に相手の力を認めてみれば、相手にもこちらが敵ではなかったということが伝わる。それが、与える交渉だという考え方です。(40ページより)

本書を読むと、バリュークリエイト交渉術の将来性を大きく実感できるはず。しかも本編に加え、87分にもおよぶ特典映像が収められたDVDも付属しているため、フルに活用すればバリュークリエイト交渉術の本質をさまざまな角度から理解することができるでしょう。交渉のスキルを上げたい人にとっては、本書がとても大きな意味を持つことになるかもしれません。

(印南敦史)

メディアジーン lifehacker
2017年4月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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