記憶力=暗記力ではない。伝えたいことを相手の「記憶」に残す4つのポイント

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記憶力が最強のビジネススキルである

『記憶力が最強のビジネススキルである』

著者
宇都出, 雅巳
出版社
かんき出版
ISBN
9784761272425
価格
1,540円(税込)

書籍情報:openBD

記憶力=暗記力ではない。伝えたいことを相手の「記憶」に残す4つのポイント

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

「記憶」という言葉を耳にすると、もしかしたらそれだけで「暗記」を思い浮かべるかもしれません。しかし、それは記憶という機能のほんの一部にすぎないのだと主張するのは、『記憶力が最強のビジネススキルである』(宇都出雅巳著、かんき出版)の著者。30年にわたって記憶術と速読を実践研究し、独自の勉強法を確立したという人物です。

印象的なのは、「人は考えるために、新しいアイデアを生み出すために、記憶を使っている」という考え方。意外なようでもありますが、下記の主張を確認すれば、「なるほど」と納得できます。

普段意識していないかもしれませんが、あなたは常に「記憶」を活用しています。
今こうやって本を読んでいるのも、文字や言葉の意味を記憶しているからですし、あなたが「ああしたらいいのでは?」と思いついたアイデアだって、まったくのゼロからではなく、あなたが持っている過去の経験や知識、他者の成功、失敗の事例、流行や時勢に関する情報などの記憶が結びついたものでしょう。
このように、私たちは考えるにしろ、何かを創造するにしろ、既に持っている記憶を使っています。
つまり、記憶がなければ、考えることもアイデアを出すこともできないのです。(「はじめに」より)

そればかりか、記憶は思考、感情、行動をも司っているのだとか。また、集中力、コミュニケーション力、伝達力、リーダーシップなどのスキルにも大きく関係しているといいます。だとすれば、記憶力の持つ力を理解し、使い方を少し変えるだけで、「仕事力」が上がっていくということになります。

そこで本書では、仕事におけるさまざまな悩みや問題を「記憶のマネジメント」を通じて解決しようとしているのです。「記憶をマネジメントする力=記憶力」は仕事力を飛躍的に高め、最強のビジネススキルになるのだと著者は断言しています。

6「学びが成果に変わる! リーダーシップ・伝える力が身につく! どんな人ともつき合える! 記憶を最適化し『仕事力』を上げる方法」のなかから、「『伝える技術』を高める、相手の記憶の活用法」を見てみましょう。

「伝える」とは「相手の記憶に残す」こと

「伝える」という行為は、日々の仕事の中核をなすもの。たとえば自分たちの商品やサービスの価値をお客様に「伝える」必要がありますし、組織内でさまざまな情報を「伝える」ことも重要。また商談、交渉、会議、プレゼン、打ち合わせ、メールなど、すべてはなにかを伝える行為であると言い換えることができます。

ただし「伝える」といっても、自分のいいたいことを一方的に話せばいいわけではありません。伝えた情報が、相手の脳のなかにしっかりとどまる、つまり記憶に残すことがゴールになるということ。ではどうすれば、自分の伝えたい情報を効果的かつ確実に相手に「伝える」ことができるのでしょうか?

このことについて著者は、「伝える=相手の記憶に残すこと」と考えるべきだと記しています。自分がなにかを記憶する際には「自分の記憶に残す」ことを考えるわけですが、その対象を「自分」から「相手」に移せば、確実に伝えられるということ。そして相手の記憶に残すためには、いくつかのポイントがあるそうです。(229ページより)

相手の記憶に残すポイント1.  繰り返す

「繰り返す」ことは、著者によれば記憶における「万有引力の法則」。なぜなら何度も繰り返し思い出されることが、脳が「これは重要だ!」と判断する基準だから。とはいっても現実的には、数回繰り返したくらいでは伝わらないのも事実。だからこそ、相手の記憶に残したいことは、「何回」というレベルではなく、「何十回」と折に触れて繰り返すことが大切だという考え方です。

著者によれば、この「繰り返しの効果」を熟知し、フル活用しているのが、テレビCMをはじめとした広告制作者、そして独裁者。シンプルなメッセージやプロパガンダを大衆に向けて繰り返し発信することによって、自分たちの伝えたいことを相手の記憶に残そうとしているということです。

もちろんその目的は、大衆に商品や政策を覚えてもらうこと。しかし、さらにその理由を突き詰めると、「人は記憶の残ったこと、なじみのあることを真実だと信じやすい傾向がある」ということにもつながっていくのだそうです。つまり、見慣れたこと、聞きなれたこと、真実とを混同しやすいということ。もちろん人を騙すというのは言語道断ですが、伝えたいことを相手の記憶に残すためには、「繰り返し」が大きな効果を発揮するということは間違いないようです。(233ページより)

相手の記憶に残すポイント2.  相手のワーキングメモリの負荷を減らす

ポイントの2つ目は、脳のメモ帳である「ワーキングメモリ」であり、意識しておくべきは容量の少なさ。容量が限られているからこそ、できるだけ負荷をかけない工夫をすることが大切だというのです。

でも当然ながら、ワーキングメモリの容量が少ないのは相手も同じ。ですから、なにか人に覚えておいてほしいことがあるのであれば、相手のワーキングメモリの状態を意識しつつ、そこに負荷をかけない、いわば「フリーズさせない」ように伝えることがポイントになるといいます。そのために有効なのが、情報を減らし整理してから伝えること。そして階層構造を意識して伝えることだそうです。

コンサルタントや講師などが話をはじめる前に、「○○のポイントは3つあります」などと、これから話すことをあらかじめ示すことがあります。これも、ワーキングメモリに負担をかけず、自身の話を相手の記憶に残しやすくするための工夫。

話を聞いている側は、最初に「ポイントは3つです」といわれることによって、あらかじめ3つの柱をイメージすることが可能。そのため情報に圧倒されることなく、ワーキングメモリをフルに動かせるということです。

なお、この際のポイントは、できるだけ少なくすること。3つくらいに絞ることが理想だといいます。なぜなら、「ポイントは10個あります」などといわれたら相手のワーキングメモリがあふれてしまい、結局は伝わらなかったという結果になってしまうから。(235ページより)

相手の記憶に残すポイント3.  相手の記憶に結びつける

記憶するにしても理解するにしても、その原理は「結びつき」。新しい情報は、すでに知っていることと結びつくことによって記憶されたり、理解が進んだりするわけです。そして、伝えたいことを相手の記憶に残すための3つ目のポイントは、この原理を直接活用することなのだそうです。

具体的には、相手がよく知っていることに例えたり、関連付けながら伝えるということ。「ワーキングメモリは脳のメモ帳に例えられたりします」というように、相手がすでに知っているものに例えながら伝えると、話を聴く側は「ああ、そういうことね」と楽に記憶できるわけです。これは、相手のワーキングメモリに負荷をかけないための工夫でもあるといいます。

また、「精緻化リハーサル」という繰り返しの方法も有効だそうです。人の名前を覚えるときには、あえて会社名を加えて覚えたほうが記憶しやすくなるというもの。これを応用するには、相手との共通点を探して自分と相手をつなぐ情報を加えていくことがポイント。

「ご出身はどちらですか? あ、神戸なんですか。私は京都なんです。同じ関西ですね」というように話すことで、相手の記憶とこちらの存在を結びつける。すると、相手の記憶に残りやすくなるというわけです。

ただしそのためには相手のことをよく知り、その人がどんなことを記憶しているのかを把握する必要があるといいます。相手の話をよく聞くことも、伝えたいことを相手の記憶に残すための重要なポイントになるということ。(237ページより)

相手の記憶に残すポイント4.  経験記憶、方法記憶に落とし込む

「伝える」といっても、その内容は単なる情報や知識だけではなく、自分の持つ技能などの場合もあるでしょう。たとえば、相手になんらかのスキルを身につけてもらいたいという場合。こうした際には、「3つの記憶(知識記憶・経験記憶・方法記憶)」がポイントに。

なにかのスキル、ノウハウを本当に使えるものにしてもらうためには、言葉にできる知識を相手の記憶に残しだだけでは不十分。言葉にならない経験記憶を積み重ね、さらには方法記憶にまで落とし込んでもらうことが必要だということです。そして、そのために伝える側が最初にすべきことは、実際にやってみせること。相手が実際に行動しなくても、自分の行動を見せるだけで、相手が行動したのと同じような経験を脳細胞に記憶させることができるというのです。

とはいえ最も重要なのは、相手に実践させ、自らの経験を積み重ねてもらうこと。そこで次のステップでは、相手に実際にやってもらうことも忘れずに。それをこちらがサポートするためには、まず言葉にできることは言葉にし、それをわかりやすく明確に伝えることが大きな意味を持つそうです。

ただ実際にやってもらうとなると失敗がつきものなので、相手はなかなか踏み切れなかったり、挫折したりするもの。そんな相手に行動してもらうためには、相手を支援し続けるという姿勢を見せ、こちらが相手にとっての「安全基地」になることが大切なのだといいます。そうすれば、そこから飛び出して挑戦しやすくなるというのです。

そして最後のステップは、相手が自ら積み重ねた経験記憶を方法記憶に落とし込めるようにすること。つまり、「身体で覚えてもらうこと」。そのためには、やりっぱなしにさせるのではなく、やったあとに振り返りを行い、学びを深め、その学びを生かした新たな行動をとるように促すことが重要だそうです。(237ページより)

記憶力に関する書籍は数あれど、それを明確にビジネスと紐づけているものは決して多くないはず。考え方をちょっと変えてみるだけで簡単に応用できるメソッドも多いので、著者の考え方をさまざまなシチュエーションで応用できそうです。

(印南敦史)

メディアジーン lifehacker
2017年4月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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