米国への強い対抗意識 中国が世界に与える影響を理解する上で必須の書

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米国への強い対抗意識 中国が世界に与える影響を理解する上で必須の書

[レビュアー] 朝浩之(編集者)

 著者の胡鞍鋼は中国の実状を総合的に捉える「国情研究」の第一人者である。現在、中国科学院―清華大学国情研究センター主任を務め、八〇冊以上の著書をもつが、『かくて中国はアメリカを追い抜く』(PHP研究所、二〇〇三年)を皮切りとする邦訳書も一〇点近い。これは政府に国情報告書を定期的に提出するという立場にありながらも、経済学はもちろん、人口学、システム工学、ゲーム理論なども習熟した幅広い視点から、経済にとどまらず、政治、社会に及ぶ政策を提起し続けていることへの関心からであろう。
 著者によれば本書は“Chinain2020:ANewTypeofSuperpower”
(BrookingsInstitu―tionPress,2011)の増訂版である。『中国2020 一个新型超級大国』(浙江人民出版社、二〇一二年)はその中文版のようだ。『中国2030 邁向共同富裕』中国人民大学出版社、二〇一一年。邦訳『2030年 中国はこうなる』科学出版社東京、二〇一二年)も同様に中国の近未来を論じるが、こちらは「中国の夢」という理念を基調にしている感がある。これに対し本書は、「第9章 中国はどのように米国を追い越すか」では八つの戦略資源ごとに指標を選定し、それを数値化した合計を「総合国力」として中米関係と二国の実力の変化を論じるが、全章を通して米国への強い対抗意識が際立つ。これは随所に引用される「[米国に]追いつかなければならない」といった毛沢東の言葉と併せると、習近平治下の中国政府(共産党)の問題意識を反映するものかもしれない。気がかりなのは、著者が否定しているはずの経済成長優先に傾斜しているのではないかという点だ。
 「中国は世界とのつながりが強くなり、互いに及ぼす影響も多くなった」という認識のもと、「『競争より協力』が新しい世界秩序となる」「中国は世界と共に成長したい」と言う著者が描く「中国独自の現代社会主義」とは、資本主義・社会主義を超える新しい経済理論の可能性を示唆するもの、と読むのも面白い。改革開放による市場経済、言うなれば資本主義の導入によって経済強国となった中国の歪みは対岸の火事として座視するわけにはいかない。一党独裁という特殊な条件があるにせよ、「『思想の解放』にもとづく経済改革」が求められているのは何も中国だけではないはずだ。中国の台頭が避けがたくなっている今日、中国の経済発展、さらに中国が世界に与える影響を理解する上で必須の書と言えよう。

週刊読書人
2017年4月21日号(第3186号) 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読書人

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