『ユーラシア帝国の興亡』 クリストファー・ベックウィズ著

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ユーラシア帝国の興亡

『ユーラシア帝国の興亡』

著者
クリストファー・ベックウィズ [著]/斎藤 純男 [訳]
出版社
筑摩書房
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784480858085
発売日
2017/03/15
価格
4,536円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ユーラシア帝国の興亡』 クリストファー・ベックウィズ著

[レビュアー] 出口治明(ライフネット生命保険会長)

交易求めた遊牧国家

 本書は、ユーラシアの歴史を動かしてきたのは、精強な軍事力(騎馬軍団)を持つステップの遊牧国家であったという歴史の常識に挑んだ問題提起の書である。

 著者は、初期の中央ユーラシアの文化複合体を構成する重要な要素であるコミタートゥス(命をかけて支配者を守ると誓った戦闘集団)に注目する。二輪馬車戦士もそうであり、イスラームが進出した後は、マムルークという制度に変化した。コミタートゥスのメンバーに高価な報酬を支払うためには交易が不可欠であった。シルクロードという総称で知られている大陸を横断する商業システムの出現、繁栄、消滅は、スキュタイ人の勃興(紀元前7世紀頃)、モンゴルなど独立の中央ユーラシア諸帝国の繁栄(13世紀)、ジューンガルの崩壊(18世紀)と並行する。スキュタイの出現と時を同じくしてギリシャ、インド、中国で知の発展が起こったのは偶然だろうか。東西交易路は文化の道でもあった。つまり、中央ユーラシア人が求めたのは、侵略ではなく、文化と交易だったのだ。

 東西の交易路は、安史の乱やアッバースの反乱の舞台ともなり(陰謀者たちは連絡していた可能性がある)、東から西に、紙や黒死病、火薬・銃などが渡っていった。交易路を通じて世界宗教が広がるにつれ、ユーラシアにおける読み書きが普及した。大宗教はみな書かれた文章の上に成り立っていたからである。

 中央ユーラシア最後のジューンガル帝国は、ロシアと清朝が中央ユーラシアを分割したため終焉(しゅうえん)を迎えた。ヨーロッパ列強が海からユーラシアの支配を始め、海洋交易網が大陸横断網に取って代わった。中央ユーラシア人は、故国と家族と自分たちの生活様式をユーラシア周縁の諸民族の容赦ない侵略や無慈悲な侵入から守るために、勝算の薄い(実際には勝ち目のない)戦いに立ち向かっていった。なるほど。異論の余地はあろうが、遊牧国家に興味を持つ読者には一読を薦めたい。斎藤純男訳。

 ◇Christopher Beckwith=インディアナ大中央ユーラシア研究科教授。著書に『中央アジアのチベット帝国』。

筑摩書房 4200円

読売新聞
2017年4月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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