<東北の本棚>山田祭復活の軌跡追う

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

<東北の本棚>山田祭復活の軌跡追う

[レビュアー] 河北新報

 岩手県山田町は東日本大震災の津波と火災で壊滅的被害を受けた。本書は、町最大の伝統の祭り「山田祭」が震災を乗り越え3年後に完全復活を遂げるまでの軌跡を追った。知人に誘われ震災後に初めて町を訪ねた著者。被災した町民の心情に配慮しながら取材を重ね、祭りへ寄せるさまざまな思いを丁寧に描いた。
 山田祭は海のそばの大杉神社と、山の上にある山田八幡宮のそれぞれの例大祭から成り、毎年9月に3日間の日程で開催される。二つの神社のみこし行列が日替わりで町を練り歩く。その行列は、神楽や剣舞などの郷土芸能団体も加わり数百人に及ぶ。
 震災の年は、賛否はあったが「前へ進むパワーにしよう」と規模を縮小し挙行した。主役のみこしの姿はなかった。大杉神社のは震災で大破し、山田八幡宮のは修理のため震災前から町外に出ていたからだ。それでも開かれた祭りを目の当たりにした著者。町の底力に魂を揺さぶられる。「どうしてできるのか。それが見えてくるまで通ってみたい」と思い立つ。
 山田八幡宮のみこしは12年に、大杉神社のは14年に修復されて戻った。二つがそろった完全復活の日。祭りは大好きだが今はつらいというある人の言葉が胸を打つ。「人が戻ってこられるためにはやっておかなきゃ、という目的をみんなが理解しているから、なんとか進んでいるが、抱えているものは個々で違う」
 町民の声に真摯(しんし)に耳を傾け、一緒にみこしを追い掛ける著者の姿が目に浮かぶ。
 著者は1968年東京都生まれ、長野県在住。著述業。著書に「濁る大河」「水におどる月」など。
 はる書房03(3293)8549=1620円。

河北新報
2017年5月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク