• あとは野となれ大和撫子
  • 無限の書
  • 人はアンドロイドになるために
  • 夏をなくした少年たち
  • スマホを落としただけなのに

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大森望「私が選んだベスト5」

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 宮内悠介は、いま一番ホットな作家のひとり。デビューから2作続けて直木賞候補となり、昨年末は芥川賞にノミネートされ、今春は吉川英治文学新人賞を受賞。創元SF短編賞の出身ながら、本格ミステリも書けば音楽青春小説も書く。

 その宮内悠介の最新長編『あとは野となれ大和撫子』は、干上がったアラル海に建設された国を守るために後宮の女の子たちが立ち上がる、いまだかつてないガールズ冒険活劇。エンタメ的には著者の最高傑作で、いよいよ大化けしそう。いまのうちに是非。

 2013年の世界幻想文学大賞に輝くG・ウィロー・ウィルソンの第一長編『無限の書』も、同じく架空の国を舞台にした波瀾万丈のエンターテインメント巨編。主人公は、〈シティ〉と呼ばれる中東の専制都市国家に暮らす23歳のハッカー青年。強大な魔力を秘めた1冊の写本を元恋人から託されたことで、幽精(ジン)や魔人(イフリート)が実在する世界に足を踏み入れる……。千夜一夜物語とサイバーパンクとアラブの春を合体させ、ユーモアとロマンスまで振りかけて突っ走るノリノリのモダンファンタジーだ。

人はアンドロイドになるために』は、ロボット工学者の石黒浩が年下のライターと組んで書いた初の小説集。自身の研究を基盤に想像の翼を広げ、従来のSFが描かなかった角度からアンドロイドの未来に迫る。

 残る2冊はともに新人のデビュー作。生馬直樹『夏をなくした少年たち』は第3回新潮ミステリー大賞の受賞作。新潟県燕市を舞台に22年前の“あの夏”を描く少年小説パートがすばらしい。文庫オリジナルで出た志駕晃『スマホを落としただけなのに』は、『このミステリーがすごい!』大賞の“隠し玉”。いかにもありそうな発端から、とんでもない展開を経て、驚愕のどんでん返しが連続する。

新潮社 週刊新潮
2017年5月4・11日ゴールデンウイーク特大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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