• 城をひとつ
  • 躍る六悪人
  • 風のかたみ
  • サンライズ・サンセット
  • ドラゴン・ヴォランの部屋

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縄田一男「私が選んだベスト5」

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

城をひとつ』は、幻の兵法書『孟徳新書』が説く「入込(いれこみ)」の術によって、敵の内懐深く入り込み、北条方を勝利に導いた影の軍師・大藤一族の活躍を描いた痛快連作集。往年の多羅尾伴内ではないが、あるときは馬商人に、またあるときは侍医に姿を変え、情報操作を司る男たちの活躍は、戦国乱世にあって、一種の爽快さすらおぼえる。読後の後味の良い連作集だ。

躍る六悪人』は、はやくも今年の時代小説界の台風の目になりそうな新人の快作。自由闊達な文体で新たな“天保六花撰”の活躍が描かれる。脚本家出身の書き手だけあって延々と続く金蔵破りのシーンは、ジュールズ・ダッシン監督の「男の争い」の金庫破りのくだりに匹敵する。

風のかたみ』は、清冽な士道小説。といっても、今回、武門の意地を貫くのは上意討ちによって夫たちを失った女らである。物語はミステリ的要素が緊密に絡みあって、一人の女の哀しみを浮かび上がらせており、ここに詳しく書けないのが残念だ。但し、面白さは保証つき。

サンライズ・サンセット』を一言で云えば、人生の伴侶となり得る一巻というのは、こういう作品のことを云うのであろう。山本一力は、大河小説『ジョン・マン』執筆のため、幾度もアメリカを訪れているが、この作品集は、作者が肌で感じたアメリカの息吹が生んだ一巻。9・11テロ前後のマンハッタン界隈を舞台に展開されるささやかな人生の物語は、どの一篇をとっても「ニューヨーカー」に掲載されてもおかしくない。読んでいて嬉しくなるような作品ばかりだ。

ドラゴン・ヴォランの部屋』は、私も含めてレ・ファニュを怪談作家と決めつけていた方にとっては目からウロコの表題作以下、五篇を収めた傑作集。お約束の怪談もあるので御心配なく。

新潮社 週刊新潮
2017年5月4・11日ゴールデンウイーク特大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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